資金力とは関係なく大切な仲間を得る

全員満身創痍になりながら、なんとか魔王を倒すことができた俺たちは、他の魔物の襲撃に備え周囲に警戒しながらカーミアの治療を受けていた。


カーミアの回復魔法はHPを全回復させる強力なもので、みるみるうちに身体の力が漲ってくる。魔王の攻撃を受けて倒れたセレスも、カーミアの治療を施されると意識を取り戻した。


「……助かったのか、わたしたちは」


セレスはゆっくりと身体を起こした。


「ああ、セレスも含めてみんなのお陰だ。ありがとう」


セレスは「そうか」と呟いて、「終わったんだな」とゆっくりと微笑んだ。


「しかし……あの技をまともに喰らっていたら。わたしの防御力をもってしても絶命していただろう」


「なんだって……!?」


「あの魔力は全力ではなかった……だが、どうして弱まっていたのだろう」


魔王の魔力が一時的に弱まったということか……なにが原因なんだ、ん??


「あっ!」


一瞬考えたあとふと気がつく俺。


「まぁ、なんとなく予想はつくけど……」


「な、なんだ? そんか大事なことが分かっているなら教えてくれ」


「いや。なんというか。ねぇ?」


「頼む、知識をつけて強くなりたいんだ!」


思い浮かぶことは一つしかないけど、純朴で無垢なセレスに言うのは躊躇ってしまう。


「それは、カーミアちゃんが魔王ちゃんのスペルマを大量に搾り取ってあげたからだよ!」


回復魔法の発動を終えたカーミアは、人差し指をえくぼにあてがってニコニコと微笑みながら、衝撃的な発言をした。


「す、すぺるまってなんだ? わたしのわからない言葉でやり取りするな!」


ズイズイと俺に向かって迫ってくるセレス。豊満な胸が俺の身体に押し付けられていた。純粋な行動はときに奇天烈な状況を生み出す。もはや誤魔化すのも苦しいだろう。


「精液のことだ……」


「なっ……!」


セレスは顔を真っ赤にして、これ以上は聞くまいと両手で耳を覆った。


「うっふっふ〜、セレスちゃん。良かったら詳しいこと教えてあげるよ〜」


「ふっ、ふざけるな。知りたい訳ないだろう! けっ、汚らわしい!」


ポンポンとセレスの肩を叩くカーミア。セレスはその手を勢いよく振り払った。


「それはさておき。ここからどう脱出しよう? 魔王は倒したとはいえ、付近にはまだ魔物がウヨウヨしているんだろう?」


「ケータ。ここはわたしに任せてくれないか?」


「セレスが? なにをするつもりだ?」


「魔王がいなくなったことで、仕える先がいなくなってしまった魔物だ。放置しているとどうなるかわからない」


セレスの指摘はもっともだった。魔王の手下だからこそ大人しくしていた魔物だっていただろう。それがもしその管理から外れてしまってら……。


「なにか考えがあるのか?」


「ああ。わたしの手にはケータから貰った宝玉がある。これを資金にして魔物たちが快適に暮らす住処を作るよ。長い道のりになるかもしれないけどな」


セレスの決意の目。決意は固そうだった。


「わかった、本当はこれからの旅にも着いてちって欲しいけど。そういうことなら応援しているよ」


「……お前たちはここまで来た道を帰ってくれ。あとはわたしがなんとかしよう」


「また会えるよな」


「ああ、また会おう」


セレスの顔ははじめて会ったそのときと比べたものとは大違いで、優しく女性らしい笑顔を浮かべていた。


「よし、グランシルバに帰ろう!」




俺はヴィオラとカーミアと一緒に、ここに来たときと同じ時間をかけてグランシルバに戻った。セレスが早速動いてくれたのかはわからないが、途中で魔物に襲われることもなく帰路につくことができた。きっと、少しづつだけどこの大陸も平穏が戻っていくのかもしれない。


「これからどうするの?」


グランシルバの宿屋でヴィオラは俺に問いかけた。


「早速、次の大陸に渡るとするよ。俺には時間がないからな」


「もちろん、私も連れていくのでしょう?」


「そうだな。金で結ばれた契約だ。とりあえずは来てもらうぞ」


「はいはい、了解でーす」


戯けたような声のヴィオラ。

俺には時間はないけど金はある。力づくでここまで調子良く進んできた訳だけど。この希薄かもしれない関係に不安を抱いているのも事実だった。


「どうしたの?」


ヴィオラが顔を覗き込んでくる。もしかしたら不安そうな表情を浮かべていた俺になにかを感づいたのかもしれない。


「本当に嫌だったら、ついて来なくてもいいんだぞ……?」


呆気にとられたようなヴィオラ。


「なにそれ、甘えてるの?」


返ってきたのは意外な言葉だった。

甘えてる。その言葉ははっきりと俺の心を見透かした証拠だった。


「そうかもな、もしかしたら金の約束だけじゃ、本当にヴィオラ達が真の意味でついてきてくれるのか自信がないのかもしれない」


「……たしかに出会いはそうだったかもしれないけど。それは確かにきっかけに過ぎないわ。あなたの行動を見て。うん、私はあなたに着いていきたいと思うわ」


「ヴィオラ……」


「なになに!? 2人で愛の逃避行? カーミアちゃんも着いていくからね!」


カーミアが俺とヴィオラの間に割って入る。

そのとき俺の視界は涙で歪んでいた。


「ケータくん、泣いているの?」


俺はずっとあのときから引きずっていたのだ。かつて一緒に夢を見てアプリゲームを作っていた、あの友人たちが金をきっかけに離れていってしまったのを。


だから、金で作った関係なんて希薄なものだって信じたかった。離れていった友人のその後を恨みたかったから。


でも金があるとかないとかは、当時の俺に限って言えばきっかけに過ぎなくて。俺は真に彼らと関係を築けていなかっただけなのかもしれない。ヴィオラとのやりとりで思いなおすことができた。


自然に涙が出てきた。涙が止まらなかった。


後悔と感謝の色々な感情が混じった複雑な涙だった。



「ありがとう……ありがとう二人とも」



「ち、ちょっと! 泣くことないじゃない。ほらしっかりしなさいよ」


ヴィオラは慌てるように俺の背中をさする。


「そうそう、グランシルバ・イージスのリーダーなんだからさ!」


カーミアは普段と変わらない元気な口調で言う。


大丈夫。きっと大丈夫だ。


失うことを知っている俺なら、大切なものを手放さないために。どんなことだってする。

どんなことだってできるはずだ。


もう一度この世界で。




------------------

区切りになりますので完結します。

またいつか続編が書けるといいな……。

お読み頂き誠にありがとうございました!


期間あけないうちに新作を公開予定ですので、これからも引き続きよろしくお願いします!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

レベル1勇者 資金力だけで魔王を倒す~金満パーティの強行戦略~ @onoyoiti

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ