呼び方
「「ただいまー」」
玄関を開けた瞬間、二人揃って口を開いた。
結構なシンクロ率だったので、おれは心の中でかなり驚いた。
「おかえりなさい。あら、一緒に帰ってきたんだ、二人とも」
リビングから出てきたサヤさんが少し驚いたような表情を見せた。
って、まぁそりゃそうだよな。おれだって、一緒に帰るなんて思ってなかったし。
「うん。帰り道に偶然会ってさ。それより、兄貴が私のユニフォーム姿、どうしても見たいんだって。参ったよねー」
言いながら、弓月ちゃんはアメリカンコメディ並みのリアクションで肩をすくめた。
「いや、言ってないから!って、兄貴……?」
「うん。海斗のことは兄貴って呼ぶ、今日から」
「あら、なんだか私の知らないところで二人が急接近したみたいね……」
おれ達の様子を見ていたサヤさんが目を細めながら、こちらをじっくりと見てくる。
その目力は確かなものだった。
言い逃れはできないと思われる。いや、何もしてないんだけどね?
「いや、別に何もないですって……」
「そうそう。それより、早くご飯食べたーい」
靴を無造作に脱ぐと、弓月ちゃんはそう言いながら、カバンを置きに行ったのか、二階へと消えていった。
「海斗クン、後で弓月と何があったかじっくりと聞かせてね」
にっこりと微笑みながら、サヤさんはおれの肩を叩いた。しかし、その笑みが逆に怖すぎて、おれは乾いた笑いを浮かべるしかなかった。
呼び捨てにしてたはずなのに、何故か君付けになってるし……
本当に何もしてないのに、なんでこうなるんだよ……
おれは心の中でそう思わざるを得なかった。
……………………
部屋に入ってすぐ、カバンを床に置き、そのままベッドの上にボフっと飛び込む。
「兄貴……か……」
言いながら、口元に手を当てる。。自分で言ったくせに、ものすごく恥ずかしくなってくる。
でも、この呼び方は嫌じゃない。こう呼ぶと決めたのは自分自身だから。
兄がほしいとずっと思っていた。でも、それを言うと姉達をガッカリさせることになると思って、ずっと言えなかった。でも、違う形ではあるが、その願いは叶った。
「兄貴、兄貴……」
早く慣れようと何度も呟くが、言うたびに恥ずかしさが増えてきてしまい、結局、弓月はベッドの上でしばらくの間、周りにバレないように枕に口を思いきり当て、声を押し殺しながら、悶絶するのであった。
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