幕間

1:誰かが見ている

 時はユウがモンドの攻撃で気を失った直後に遡る。


 ユウがラプラスと一緒にモンドを待ち伏せしてから戦い倒れるまでの一部始終を、二人の男が屋敷の塀の上から堂々と眺めていた。

 周囲に展開した光学的な干渉障壁によって、少しでも離れてしまうと彼らの姿は見えない。


 気配を消していることも相まってか、警備をしていた者達の誰もが二人の存在には気が付いていなかった。

 もっとも、この世界の住人でこれを看破できるような実力者は殆どいないだろうが。


 それどころか、”世界の外から訪れている”者達を含めても、その数は大して増えないだろう。


「今のところ、使ったのはまだ”ターニングポイント”だけか」


 二人の内の片方、ニット帽子を被った老人の目が光った。

 小柄な体と白髭の弱々しさは相手を油断させるための小道具だと言わんばかりに、その眼には野心が溢れている。


「ああ。」


 隣にいた長身の痩せ型、白い仮面を身に着けた男が曖昧な言葉を返した。

 その声は老人に比べるとかなり若い。


 少年と言うほどの幼さは無いが、中年と言うにはまだかなり早いだろう。

 だが仮面の目の所だけに開いた穴の奥は完全な闇になっていて一切の感情が伺えない。


 まるで全ての光が吸い込まれていくようだ。


「そろそろ”ワンダーウォール”ぐらいは使ってもいい場面だと思うんじゃが……。宝の持ち腐れじゃのう」


「……どの道そう遠くない内に使うことになるんだ、今ここで焦る必要はないさ。」


 二人の視線の先ではステラ達がモンドと戦っている。


「ん? ”グレイファントム”が戦る気のようじゃ。こちらの催促が聞こえたか?」


「まあ、見てるのに気が付いてはいるだろうからな。」


 少しすると”ユウ”がモンドと戦い始めた。


「これでこの勝負は決まり。あとは仕込まれた爆弾がいつ弾けるか次第と言ったところか」


「……。」


 仮面の男はそれに対して何も答えなかった。


 ……いや、沈黙で答えたと言うべきかもしれない。

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