第13話:平穏

「聖女様、大きな鹿が狩れたよ」


 孤児の一人が獲物が狩れたことを嬉しそうに伝えにくる。 

 毎日獣が狩れるようになって、毎日お腹一杯肉が食べられるようになっているのに、それでも肉が食べられる事の喜びが減らない。

 いえ、一日三度の食事ができる事を、とても喜んでくれてる。

 食べられる喜びは、飢餓を経験した者からはそう簡単に失われないのでしょう。


 私が公国を建国した事で、辺境だった場所が首都部となりました。

 首都と呼ばず首都部と呼ぶのは、首都と呼ぶべき城や都市がないからです。

 多くの難民が集まり、人数の多い村はありますが、とても都市と呼べるようにモノではなく、切り倒した材木で組み立てた家しかありません。

 石造りの建物など、貧乏神殿の僅かな部分だけです。


 この貧乏な国でも、民は幸せに暮らしています。

 いえ、むしろ以前よりも豊かで安心な生活を手に入れています。

 王侯貴族がいなくなったことで、ほとんど税がいらないのです。

 わずかに支払うことになっているのが、聖女である私への寄進です。

 今までのように、収穫の七割八割を無理矢理奪うような事はありません。

 飢饉に備えて、一割を義倉に納めるだけです。


「ねえ、早く一緒に解体しようよ、作りたてのソーセージが一番美味しいんだよ」


 孤児達が続々と集まってきます。

 最近とみに私に近づくようになってきましたが、少々心配です。

 私の周りには見えない魔獣がたくさんいるので、彼らが孤児達を邪魔に思い、襲い傷つけないかと心配になってしまうのです。

 今のところは何の問題もありませんが、魔獣の機嫌など私にも分かりません。


「分かったわ、直ぐに用意しますから、先に行っていてください」


 私にできる事は、機嫌よくうれしそうにするくらいです。

 私が孤児達の誘いに喜んでいる姿を見せておけば、魔獣達が孤児達を無差別に襲う可能性は低くなります。

 私が少しでも嫌そうにしてしまうと、魔獣達が孤児達に敵意を向けるかもしれませんから、常に笑顔を絶やさずに機嫌よくしなけければいけません。


「聖女様、わざわざお運びありがとうございます。

 聖女様の使徒のお陰で子供達が飢えずにすんでおります。

 どうかこれからも宜しくお願い致します」


 神殿長がまるでしもべのような態度で接してくれます。

 最初は戸惑いましたが、最近ようやく慣れてきました。

 私が公国の建国を宣言した事で、公王として接してくれているのでしょう。

 流石に元将軍だっただけの事はあります。

 それに、私が孤児や小作人のために、魔獣を使って狩りをして食糧を確保している事を、心から感謝しているのですよう。


「神殿長、そろそろ軍隊が必要になると思うのですが、どう思いますか?」


 私は最近悩んでいたことを思い切って口にしました。

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