第3話 正義の理想と現実 3

(ベルツリー侯爵side)



その後…アキホ・ナギワは、王太子殿下の説得?の成果で素直に自供を始めた。



「本日の取り調べは、ここまでだ。

明日もひき続き取り調べをする。」


「はい… 。」



最初よりは顔色の良くなった、彼女が女性騎士に連れられて、取り調べ室を後にした。



… 。


… 。



「あの…団長、一つ質問があの女何で【終身刑】で喜んでいたんです?」


「ああ…あれねー。

私も殿下に聞くまで知らなかったんだが、稀人の世界の彼女達の国じゃ【終身刑】と言っても長くて15年ぐらいで出て来れるんだそうだよ。」


「えっ!?それって…… 」


「ここじゃ【終身刑】と言えば、本当に死ぬまで出て来れないんだけどね。

もちろん彼女には内緒だよ。」



副団長の質問にそう答える。



「世界が変わると、いろいろ違うものですなぁ。

しかし、殿下はそのような知識をどこで?」



まぁ…普通はそこ疑問だよねー。

私の予想通りなら、殿下は転生者だろう。

だがご本人がご公表されないのだから、知られたくないのだと思う。



「殿下のお知り合いの中に転生者や稀人がたくさんいるからね。

きっと彼らに聞いたんだろう。


さて、後は業務は報告書を作成して終わりだ。

今日は娘が『ローストビーフを作る。』と言っていたから、楽しみだなぁ。

そうだ!副団長も偶には、家で食べて行かないか?」


「いや、しかしご家族の団欒にお邪魔する訳にも…… 」


「そう言わずに、娘も喜ぶし…妻も君に会いたがっているしな。」



こうして私は、しぶる副団長を連れ帰宅した。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーー


( 副団長side)



この屋敷に来るのもずいぶん久しぶりだ。



「申し訳ありません。急に来てしまいまして。」


「大丈夫ですわよ。主人からは連絡を貰っていますから。」


「あ、コレはお土産です。皆さんでどうぞ…… 」



手土産も無しで訪問する訳にも行かず、私は団長に頼んで閉店間際の【ユウリン館】に寄ってもらい《チーズクッキー》と《チーズケーキ》を購入した。



ここの《チーズクッキー》は、団長の奥方とお嬢さんの好物。《チーズケーキ》は『酒のアテにもなる。』と団長にも好評でここに来る時の手土産の定番になっている。



「まぁ♪いつもありがとう!このクッキー大好きなのよ。それとウチに来た時くらいと呼びなさい。」


「しかし…… 」


「しかしもカカシも無いわよ。だって私と貴方は姉弟なんですから!」


「はい…姉上。」


「よろしい!さぁ、食堂に行きましょう。」



玄関を入って直ぐに私を迎えてくれたのは、40代で成人した娘がいるようには見えないとても華やかで美人の従姉姉上だった。



実は私と団長は義兄弟なのだ。一人娘だった従姉姉上は、団長と婚約していたので、分家である子爵家の次男だった私が本家である伯爵家へ養子に迎えられた。



ところが養子に行った数年後に養母が妊娠し、生まれて来たのは男子だった。

跡取りとして引き取られていた私の立場が微妙になった。



養父母は『そのまま跡を継いでも良い。』と言ってくれたが、私としては複雑だ。



結局、義弟とは年齢が離れ過ぎていたので一旦私が跡を継ぎ、その後を義弟が継ぐという事になった。



その時、子供がいるとまた揉める原因になると思ったので、私は生涯独身を貫く事にしたのだ。



食堂に行くと姪にあたるカロラ嬢が抱きついて来た。



「叔父様♪やっと来てくださったのね♡」


「カ…カロラ嬢!」



今年19歳になるカロラ嬢は、父親である団長に似ず従姉姉上に似て華やかな美人に育った。以前、学園で起こった事件を鮮やかに解決したところは、流石はベルツリー侯爵家の令嬢だと感心した。



「まぁ!カロラ、はしたないですわよ!」


「だって久しぶりなんですもの♪」


「カロラ嬢、もう歳頃なのですからこういうのは…… 」



カロラ嬢は何故か昔から私の事が『大好き』と言ってはばからない。

『顔が怖い』と女性や子供から嫌煙されているのに変わった子だ。

もちろん恋愛感情ではないと思うが……



「いいでしょ叔父様♪結婚したらもう出来なくなるんですから、今の内だけですわ♪♪」


「仕方ないなぁ…今だけですからね。」


「は~い叔父様♡」




その彼女も、後数ヶ月後には結婚する。それを機会に私は騎士団を辞め、当主の座を義弟に譲り、長年の夢だった食べ歩きの旅に出ようと思っている。



団長はしぶっているが、私の決意は堅い。



ところが数ヶ月後…私の計画は頓挫する事になった。

従弟義弟の妻の実家の伯爵家を継いでいた彼女の妹が、実は伯爵家の血筋では無い事が判明した為、後継者の資格無しとされた為、伯爵家存続の為に義弟夫婦が伯爵家を継ぐ事になったのだ。



結局、当主と騎士団は継続……

子供の居ない私は、後継に義弟の三男を養子に取る事になった。



この養子である甥が、何故か私とよく似ている。まぁ親戚だから似ていてもおかしくないんだが……



彼はまだ若く、学園の中等部に入ったばかりなので殆ど学園の寮で暮らしている。なので私の休みの日に学園街に出かけては、二人で食事をしながらいろいろな話しをし、コミュニケーションを取る事にした。



なかなかの健啖家で彼とは仲良く出来そうで何よりだ。未来の第四騎士団員としての素質も充分だと思う。



いずれ彼が学園を卒業し、一人前になるまで私の夢はお預けになりそうだ。

さて、今日は何を食べようか……





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