第2話 聖人様は変わり者

(ハーシーside)


実家のサイド領にある冒険者ギルドに夏の休暇中、所用で来たらとんでもない方を見つけてしまった。



それは本来こんな所に、一人で居てはいけない方。



ユイナーダ王国第三王子にして、【聖人】で【勇者】のセイマ様。

私の一つ歳下の幼馴染みだ。



昔から殿下に頼られると、世話をしなければいけない気分になる。

昔と違って殿下の方が、ずっと大きくなったのに……



「それでね…ハーシーに頼みがあるんだ。

このサイド領に居る間だけで良いから、臨時パーティーを組んでくれないかな?

この辺りに来たのは初めてだから、場所がよくわからなくってね。」



殿下はこの辺りに来るの、初めてだったのか……



「セイマ様、何時もの護衛の方々はどうしたんですか?」


「解散になりました。」


「解散って!?いったい何があったんですか?」


「剣士のトーマスが魔法使いのミーナと浮気していたのがバレて、付き合っていた武闘家のサラを激怒させ、解散になりました。

サラの必殺トルネードアッパーが、トーマスのアゴに決まった時は凄かったなぁ。

人間って本当に飛んで行くんだねー。

あ、斥候のステラは結婚退職です。

彼等とは三年もパーティーを組んでいたので、解散するのはせめて今回の仕事が終わってからにしてもらいたかったですね。」



なんだそりゃ!?

情報量多いな!



それで臨時で稀人の護衛を雇ったら、こんな事になったという訳ですか。

急いでいたにしても、聖騎士団に臨時で護衛を頼むとか、他に方法があったでしょうに。



「ここに居ても仕方ありません。

とりあえず、我が家においでください。」


「えっ♪いいの?

やったぁ~♪ハーシーの実家に招待された♪♪」



そう言って、セイマ様は私に抱きついて来た!

えらい喜び様だな。

というか、その誤解を招く言い方と態度を辞めてください。

さっきから周りの視線が、凄い事になってるんですけど!!



誤解しないでくれ!

セイマ様とは、皆んなが考えている様な関係じゃないんだ!!

この方は匂いフェチで、気に入った匂いの人に対してはいつもこうなんだよ。



「セイマ様!離してください!

人の目がありますから!!」


「人の目が無かったらいいの?」



し、しまった!ニコニコしながら、セイマ様が余計にじゃれついて来た。



その後、私はじゃれつくセイマ様をなだめすかし、冒険者ギルドでの用事である【採取依頼】を受付に提出後、乗って来た馬車で領主館へと戻る事にした。



いつの間にか冒険者ギルドの売店で購入していた、《栄養クッキー》を頬張るセイマ様と一緒に……



「これがハーシーの育った町かぁ~。

流石は魔道具師の町、この街燈は最新式なのかい?」


「はい、一応ここで試験運用をしてから、売り出しますから。」



モグモグ…モグモグ…ごっくん。



「セイマ様…そのクッキー美味しいですか?

それ、栄養価は高いんですが不味くて人気が無いんですけど。」


「私はこの微妙な味が好きなんだ。賞味期限切れが近くて安く売ってたから、大量買いした。

アイテムポーチに入れておけば大丈夫だし。

災害時の保存食としては優秀だよね。」



まぁその為にユイナーダ王国初代国王トール王の命令で、未だに各地区で五年分の備蓄が義務付けられているんだけど。



で、三年毎に入れ替えている。

入れ替えた《栄養クッキー》は冒険者ギルドなどで格安で販売されている。



荷物をあまりたくさん持たずに移動する、冒険者に携帯食として販売する為だ。



ただし、今では他にも美味しい携帯食が出来たので、人気がない。



「もったいないですよね。

美味しくすれば売れると思んですけど…… 。」



と言ったら、セイマ様はヤレヤレといった表情で……



「美味しくしたら、皆んな余分に食べるでしょ。

コレ一袋で一日分の栄養素があるんです。

『美味しいから』と言ってたくさん食べたらあっという間に無くなって、足りなくなるじゃありませんか。

『美味しい携帯食』がそのうち出てくるのを見越して、態とこの味なんですよ。」


「な…なるほど、そうだったのか!

目から鱗の発想だ!

やはり、トール王は稀人だけあって凄いな。」


『嘘です。いろいろやってみたけど栄養素を重視すると、どうしてもコレ以上の味にならないんですよね。

ずっと未来の人間に合わせた栄養素にしたら、美味しくなるかもしれませんが。

だってこの前、マジックバックに入っていたトール王の時代の《栄養クッキー》食べたら、すっごく不味かったんです。』


(そんなもん食べるな!!)


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