k01-33 伝説のアイテム達

「入口は裏側だよ!」


 そう言って大樹の裏側へ回り込むアイネ。


 ついて行ってみると、そこには木の幹に沿って階段が設置されていた。


 アイネに続いて昇っていく。

 け、結構高い。



「マスター! 戻りました」


 ドアをノックするアイネ。


 ……返事が無い。



「あれ……? マスター?」


 ドアを開け中に入る。



 アイネに続いて私達も室内に進む。



「……うわぁーー! 何やこれ! 何なんやこれぇぇぇ!!」


 中に入るなり、エーリエが興奮してはしゃぎ出す。


 私はもう驚き過ぎて、開いた口が塞がらない。



 目の前には、木の内部とは思えない広々としたホール。


 木製の家具で統一されたお洒落な内装だ。


 テラスの先には洞の外の景色が広がっている。


 一角には教卓と机が並べられていて、柔らかな日差しが差し込んでいる。


 天気の良い日にあんな所で読書でもしたらすんごい気持ち良いんだろうな。



 近くに置かれた黒板には雑な字で


『ちょっと出かけてくる。夕方には戻る』


 と書かれていた。



「あ、もう! シェンナ達が来るって言ってあったのに!」


 それを見たアイネが腰に手を当てて怒る。


「2人共、ごめんね。マスター急に出かけちゃったみたいで……。せっかく来てくれたんだしせめてお茶でも飲んでいって」


 そう言ってキッチンへと歩いていくアイネ。


「あ、大丈夫。お礼さえ渡せれば挨拶はまた今度でも……」


 そう言いつつも、そんな事より部屋の中に置かれている物が色々と気になって仕方がない!


 一番驚いたのは、壁一面に並べられた書物や薬品、機器の数々!


 見るからに豪華な仕立ての本や、見たこともない色の淡い光を放つ薬品。


 一見して並大抵の物じゃないと分かる。


「……ねぇ、ちょっと見させて貰って良い!?」


 キッチンで飲み物の準備をしてくれているアイネに声をかける。


「うん、大丈夫だけどマスターの私物だって言ってたから、気を付けて扱ってあげて」


 アイネが飲み物を注ぎながら顔だけこちらに向けて答えてくれた。



 棚の前に立ち、綺麗に並べられた書物を順に眺める。


 中から、目についた物をそっと1冊取り出す。



 革張りの表紙に金縁加工がされた豪華な造り。


 型押しされた本のタイトルを読み上げる。


「ジャル……ド……、ジャルドール・グリモワ……え!? 嘘っ!!? これ本物?」


「え? なんやなんや? お宝か!」


 思わず大声を上げた私に驚き、エーリエが駆け寄ってくる。


「二世界戦争より前に失われたって言われてる魔術書よ!」


「え……何それ? 魔術??」


「私も家の書物庫にあった本で読んだだけだけど、なんでも昔はキプロポリスでも魔法が使えた時代があったんだって。確か、輝石魔法っていう名前だったかな。今じゃその技術の殆どが失われちゃったけど、その時代の書物が何冊か現存してるって書いてあった」


 アイネは何か知ってるかと思い、キッチンの方を見てみるけれど、特にリアクションもなく無言でお茶の準備をしている。



「ん~、よお分からんけど、これがそのオカルトの古本ってこと?」


「古本なんてとんでもない!! もし本物だったら博物館行きの大発見よ!」


「……シェンナぁ。こんな所にそんな物ある訳ないやん。偽物やろ」


「でも、製本の様式とか表紙の革の具合からしてかなり古い物なのは間違いないと思うんだけど……」


 そう言いいながら、ふと脇の棚に目をやる。



 いくつかの薬瓶が並んでいる。

 その中の1つ、淡く黄金の輝きを放つ薬品が目に入った。


 瓶の中の液体は、プクプクと細かな泡を上げ続け発泡飲料みたいな様子。



 そっと顔を近づけて覗き込む。


 すると、泡だと思っていたのは、銀色に輝く微少な星型の結晶だという事が分かる。


 それが瓶の底から次々に現れ、水面へと立ち上り弾け散る……。



「……コレ!!!? まさかアンニィパータントポーションじゃない!!?」


「……何やその噛みそうな名前?」



 驚き慄く私を横目にエーリエが瓶に手を伸ばす。


「触っちゃだめ!!!」


 私の裏返った声に驚きエーリエが手を引っ込める!


「なんや!!? 危ないヤツか!?」


「逆っ!! どんな大怪我や猛毒も一瞬で治すっていう幻のポーションよ!

 飲めば切断された手足でもたちまち生えてくるとかいう、外科医もびっくりな回復薬。別名"黄昏の霊薬"」


「……何やそれ。胡散臭ぁ〜」


 エーリエが肩を窄め怪訝な顔で覗き込む。



「大昔に製法が失われて、現存数がごく僅かだから、闇マーケットでもの凄い値段で取引されてるって話よ。

 瓶1本分売れば大きな屋敷が建つって言われる程」




「……え、そうなの!? 私普通にハタキで掃除してた……」


 いつの間にか後ろに立ってたアイネが驚いて覗き込んでくる。


「ねぇ、あのマスターここにある薬とか本、何処で手に入れたって言ってた?」


「えっと……確か家で埃かぶってた古い物を色々持ってきただけって言ってたけど」


「そんな訳ないわよ! こんな品揃え国立博物館でもあり得ないわよ!」


「く、詳しい事は本人に聞いてみないと……。あ、そう言えば何かおじいさんがちょっとした有名人だったとかなんとか」


 私の勢いに押されてアイネが苦笑いで後退る。


「シェンナ落ち着きぃな。普通に考えてレプリカやろ。そんな貴重なお宝がこんな所に無造作に置いてある訳ないって」


 狼狽する私の肩に手を置いて呆れ顔でエーリエが首を振る。



 まぁ……普通に考えればそうなんだけど……でも。


 どれもこれも家の図書室で見た本に書いてあった特徴とぴったり一致する。



 もちろん、エーリエの言う通りレプリカかもしれない。


 でも、仮にレプリカだとしてもこんなに精巧なもの、それなりの値段がするはず。


 テイルからの予算もろくに出てないはずなのにこれだけの物を一体どうやって……。


 そもそもここに引っ越してからそんなに時間も経ってないはず。


 なのにこの立派なホームは何!?


 どうやってこんな所に建てたの!?



 色々と思考を巡らせるけれど、結局は本人に聞かないと分からないわね……。


 手に持っていた本を丁寧に本棚へ戻す。



 その間に、アイネがお茶の用意を済ませてくれていた。



 広々としたローソファーに腰掛けて、優雅なティータイムを堪能させて貰った。



 ここは高級ホテルかっ!?

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