k01-32 ようこそ私達のホームへ!
3人共、ほぼ同時にご飯を食べ終わった。
エーリエの後半の追い上げは末恐ろしい物があったわね……。
食後に私はコーヒー、アイネは紅茶、エーリエはオレンジジュースを飲みながら広場の先に広がる湖を眺める。
「そう言えば。お見舞いのお礼がしたくてさ、今度ホームに寄らせて貰えないかな」
すっかり忘れていたけど、本題を思い出した。
「え……? うちのホームに?」
手に持っていた紅茶の紙コップを降ろし、少し驚いた顔で私を見るアイネ。
「そう、ジン・ファミリアの名義でお見舞いの品頂いたから、ホームまでお伺いしてマスターにお礼しなきゃと思って」
「え……そんな悪いよ。だってバナナだったし……」
「そんな事ないよ、私バナナ好きだし。それにこういうのは気持ちだから」
少し考え込むアイネ。
「じゃあ……。もし良かったら明日とかどうかな? 私もマスターも1日ホームに居るはずだから」
「え!? なになに!? アイネのホームに遊びに行くん!?」
オレンジジュースを啜っていたエーリエが突然食いついて来た。
「あ、遊びに行くんじゃないから。お見舞いのお礼。快気祝いってやつ。まぁ、そんなに大層な物でもないかもしれないけど」
「えー!! いいな! うちも行く! 絶対一緒にいく!! ええよな、アイネ?」
そう言って目をキラキラさせるエーリエ。
「う、うん。……実は、マスターにあんまり人を連れてくるなって言われてるんだけど……シェンナとエーリエなら大丈夫だと思う」
「いゃったー! 楽しみやなぁ」
「それじゃあ……明日の13時頃はどうかな?」
「うん、大丈夫だよ」
「うちもオッケー!」
「じゃあ、13時に演習エリア『B-3』ゲート前で。あ、私が案内するからゲートの前で待っててね。あの辺りはまだ調査中で、私と一緒じゃないと入れないかもしれないから」
「了解ー!」
エーリエが元気に答える。
この後、少し買い物するためにその場で2人と別れた。
明日の手土産何にしようかな。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
翌日。
演習エリア『B-3』ゲート前。
事故以来ずっと立ち入り禁止になっているため、ゲート前には私達以外に人気は一切無い。
「えーっと、それじゃあさっそく入るよ。私から離れないでね」
そう言いながらアイネが重い鉄製のゲートを力いっぱい押す。
「あ! 手伝うで!」
そう言って軽々とゲートを押し開けるエーリエ。
ホントこの子……。この細くて小さい体のどこからこんなパワーが出るのか。
見た目と中身のギャップが凄いのよ……。
「あ、ありがとう! エーリエ力持ちだね」
「えへへ、マスターにも遠距離武器より近接武器でいかないかって言われてるの」
うん。私も絶対そう思う。
3人揃ってゲートを潜る。
中に入ってゲートを閉めると、アイネが突然ガサガサと藪の中を漁り始めた。
「えっと、確かこの辺り……」
「ちょっと! 何やってんの!? 藪の中はモンスターが居て危険だって!」
慌てて制止するが、アイネはそのまま続ける。
「ん~、そうなんだけど。あ、あったあった!」
そう言うとアイネが私達に向け手招きする。
「こっち、付いてきて! 誰か来ないうちに急いで」
そう言って藪の中に入っていく。
「え!? こっちって!? ちょっと話聞いてた!? 危ないって!」
慌てて呼びかけるけど、既に藪の中に入って行ったアイネの姿は見えない。
「大丈夫だから! 離れないで付いてきて」
声だけが聞こえる。
エーリエと無言で顔を合わせる……。
仕方ない……連れて行って欲しいと頼んだのはこっちなんだし。
意を決して藪の中に入る。
エーリエも私の後に続く。
数メートル進むとアイネの後ろ姿に追いついた。
「えっとね、ここに杭みたいなの刺さってるでしょ?」
アイネが指さす先を見ると、10センチ程の大きさの鋲が地面に刺さっている。
その鋲からはロープが張られ、藪の奥へと続いている……って、コレ!
こないだ私がシャドーウルフェンから逃げてるときに引っかかったブービートラップじゃない!!?
「え、これって!!?」
思わずアイネに聞き返す。
「マスターが設置してくれたの。このロープを辿っていけばホームに着くから、万が一逸れた場合はこれを探してね」
あいつだったのか……!
いや、勝手に躓いた私が悪いんだけど。
でもどう考えても危ないでしょ……。
まぁ、普通こんな藪の中まで入ってこないか。
ここで四の五の言っても仕方ない。
黙ってアイネに付いていく。
ーーー15分程黙々と歩いただろうか。
入り口こそ藪で外から見えないようにカモフラージュされていたけれど、そこから先はロープに沿って獣道にようになっていて歩くのは意外と楽だった。
「2人共大丈夫? もうちょっとだよ!」
先頭を行くアイネが立ち止まって私達に声をかける。
「うん! 平気や!」
後ろのエーリエが返事を返す。
「私も大丈夫! それより、アイネ。いつもこんな道通ってるの?」
「うん! 今日は荷物も無いから楽な方だよ。何かこの道のお陰で私だいぶ体力ついたかも」
そう言いながら笑い、再び歩き出す。
そこからさらに数分歩きーーーー
「着いた!」
アイネが声を上げる。
その後に続き藪を抜けると――目の前には大きな湖が広がっていた!
森の中に突如として現れたその神秘的な光景に、驚いて声も出ない……
そんな私を尻目にエーリエが大声を上げる。
「凄ーーい!! なんや!? 秘密の場所ってやつか!! ええやないかぁ!」
確かに!
所々光が差し込み水面がキラキラと光る。
マモノが居る鬱蒼とした森の中とは思えないほど綺麗な光景だ。
「こっちだよ!」
そう言ってアイネが湖に沿って歩き出す。
私達もそこ後を追う。
よく見ると、湖畔に沿って例の鋲が等間隔に打ち込まれている。
「ねぇ、何でここにもあの鋲打ってあるの?」
これだけ開けていれば道しるべも必要無さそうだけれど……。
「ん? あ、マスターが言うには、コレって道しるべ兼結界なんだって。コレのお陰でマモノが寄ってこないんだとか」
ーーーー結界!?
シャドーウルフェンに追いかけられた時の事を思い出す。
あの時、襲ってこなかったのってもしかして私がその結界の中に居たせい?
でも、シャドーウルフェンみたいな最上位マモノを寄せ付けないとなると、かなり高度な……それこそ軍用レベルの品物のはず。
ここまで来る間に結構な数を見たけど、そんな貴重なもの何処から大量に仕入れたのか……。
「えぇーーっ!! 何やこれ、すっごい!!」
歩きながら考え込んでいると、エーリエの大声でハッと我に返る。
目線を上げると……目の前に巨大な樹木がそびえ立っていた。
幹には大きな洞があり、そこから広々としたウッドデッキが湖の上までせり出している。
なに……これ!?
「ようこそ! ジン・ファミリアのホームへ!」
振り返り、そう言って少しはにかみながら両手を広げるアイネだった。
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