第15話 勇者パーティ2 最悪の出来事

「さぁ! 今日からが伝説となる日の幕開けだ!」


 ダンジョンの前で俺は高らかに叫んだ。


「もうそんな事は良いから早く行きましょ」

「そうですよ。もう昨日からワクワクでしたんですよ」


 よほど楽しみにしていたのだろう。ここまでやる気のある二人を見るのは初めてかもしれない。


「荷物の確認などはしなくても良いのか?」


 テンションが上がっている時に水を差す様に言葉をかけてきた。


「大丈夫に決まっているじゃない」

「最低限の物はあるのですよ」

「そうだな。今まではアランが入念にしていたが必要になった時は一回も無かったからな」


 ある程度の確認はしているんだ。そんな必要なものを見落としている筈が無い。


「そうか……」

「そういう事だ。それじゃあ入るぞ」

「ええ」

「はい!」


 無駄話もそこそこにして俺たちはダンジョンに入って行った。


『剣神流 雷神』


 まだまだ上層なこともあって簡単に敵が倒れていく。俺の剣技やサーラの魔法の一撃だけで倒せるレベルだ。


「久しぶりのこの階層だったが余裕だな」

「そうですね。それにあの無能より"剣聖"の方がカバーも上手いですし」

「これくらいならアランもできると思うが」


 フライアが謙遜を言っているが、アランよりも数段戦いやすい。現に他の二人もいつにも増して魔法の精度が高い。


「ここらは余裕だしサクッと今日の目標である30階層まで行きましょう」

「そうだな。早く行けばその分休めるだろうし」


 俺たちはサクサクとダンジョン攻略していき、今日の最大の敵である30階層のボスまでたどり着いた。


「懐かしいな。ここも最初は苦戦したもんだ」


 オークキングを目の前にそう呟く。何回も何回も挑んでようやく勝ち取った相手だ。


「今ならもう余裕よ。私たち全員が強くなってるんだから」

「だな。よし行くぞ」


 俺はオークキングの元へと向かった。このパーティの前衛は俺だけと言っても過言では無い。その為素早い動きが重要だ。


「ハァッ!」

「…………」


 オークキングの後ろに周り背中を斬りつける。が剣技を使わなければ何のダメージも与えられない様だった。

 しかし


「今だ!」


 完全にヘイトはこちらに向いていたので魔法を出す合図をする。


『我が求めるは火の奇跡。フレイムバースト』


 短縮した詠唱で火の攻撃魔法を唱えるサーラ。


「グラァ……!」


 オークキングが一瞬よろめく。その隙を逃すことなく剣を振るう。


『剣神流 風神』


 風の衝撃波と太刀の二段攻撃でオークキングを斬りつける。

 その直後オークキングは魔石へと変わる。


「やっぱり余裕だな」

「私の出番が無かったぐらいですものね」

「私の魔法がよく効いたのよ」


 やっぱり俺たちは強い。どんな人でも苦戦を強いられるオークキングをこんな簡単に倒したんだ。


「よし、これで休めるな」

「待て。何か……来る」


 フライアはそう言って、俺たちが意気揚々と先に進んでいるところを止めてきた。


「何が…………えっ?」


 セーラは文句を振り返ったものの腑抜けた声を上げていた。


「どうした——はっ……? なんでこんな所にドラゴンが居るんだ……」


 サーラの様子が気になり俺も振り返るとそこには一匹の紅いドラゴンの姿が見えた。


「どうしてこんな所にウェールズが……⁉︎」


 そう言うソフィアの声は震えている。それもその筈だ。ウェールズとは90階層のボスとして出てくるドラゴンなのだ。

 こんな所に居る筈がない。


「ちょうど良い機会じゃない。少し驚いたけど私たちなら勝てるわよ。何せあの無能がいても勝てたくらいだもの」

「そうだな。負ける筈がない」


 サーラの意見に俺は同意した。こんな所にどうして居るのかは分からない。しかし、アランが居てもギリギリとは言え勝つことが出来たんだ。"剣聖"が入った今なら。


「行くぞ!」


 取り敢えずは今まで通りの攻撃の方法で戦う。


『剣神流。雷神』


 ヘイト集めの目的も兼ねて一太刀大きくウェールズに入れる。しかし、かすり傷程度の効きであった。


「私の出番ね!」


 そう言ってサーラは走り出した。


「なっ! なぜ前に出ている!」


 守りに徹していたフライアはサーラを追いかける様に同じく走り出した。


『我が求めるは水の奇跡。ブリザード』


 ゼロ距離の水魔法がウェールズを襲う。


「ググ……⁉︎」

「きゃあ!」


 一瞬動きが止まったものの跳ね除ける様に、サーラを突き飛ばす。


「いった……。フライア! ちゃんと守りなさいよ!」

「あんな急に走り始めたら守れるわけがないだろう!」

「あの無能でもやってた事なのよ!」

「今は言い争ってる暇はないですよ!」

『我が求めるは回復の奇跡。親愛なる光キュアヒール』


 喧嘩をしている二人を宥めながらソフィアは回復魔法を唱える。

 そのお陰でサーラは立ち上がることができた。しかし今の状況は全く変わらない。

 前は同じ様な戦法で勝てていたはずの相手なのに、どうして何だ。


「アイギス」

「フライアか。何だ」


 戦闘中フライアに話しかけられた。


「私は今から急いでアランを探して呼んでくる。その間時間を稼いでくれないか?」

「はぁ? 何言ってんだよ! あいつがいても変わる訳——」

「それでもアランが居た時には一度勝っているのだろう?」

「……ああ」


 それは否定できない事実であった。だが、あいつのお陰で勝てていたなんてあってはならない。だから絶対に違うんだ。

 そんな思いを踏み躙にじるかの様に言葉を続けた。


「だから呼びに行く。私では勝てるわけがない」

「……分かった」


 あいつの手を借りるのなんて絶対に嫌だった。でも今の状況を変えれるのはあいつしか居ないのかも知れない。そんな二つの事が頭に巡り巡っていた。


 俺が許可を出すとフライアは「感謝する」と言葉を発してウェールズの下を通り抜けて30階層を後にした。


「フライアが助けを呼びに行った。それまで死守するぞ」

「……分かったわ」

「……はい」


 二人は他の奴らの手を借りるのは嫌なのだろう。俺も勿論嫌だ。しかし今の状況を考えれば頷くしか無かった。

 ここからフライアが戻ってくるまで防衛戦が始まった。

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