第3話 魔法剣士になる

「あの……ここは?」

「目を覚ましたか」


 目を覚ましたステラは、まだ眠たげな目をしながらそう訊いてきた。

 ステラにここまで来た経緯を簡単に説明した。


「そうでしたか。それはありがとうございます」


 話をしているうちに、普通の状態に戻ったステラはお礼を言ってきた。


「いやいや、こちらこそ本当に申し訳なかった。無理なことを何回も頼んでしまって」


 お礼を言われることなんて何もしていない。逆に文句を言われても、おかしくない事をやらかした。


「お金はちゃんともらいましたから。それにこんなに介抱までしてもらって」

「それが普通だと思うが……」

「それが普通じゃないんですよね」


 ステラは少し悲しそうな目でそう言った。話を聞いた限り、お金を先払いにしてても気に食わない結果だったら取り返そうとしてくるらしい。


 あの男が初めてじゃ無かったのか。通りで物怖じせずに、言い返せた訳だ。


「そうだったのか。それでも謝らせてほしい。ステラをここまで追い詰めたのは事実だ。本当にすまなかった」


 俺はもう一度深々と頭を下げた。


「もう全然大丈夫ですよ」

「そうか」


 ステラは両手を振って、笑顔で返してきた。


 しつこく言ってもあれなのでここで終わりにしておく。何かあったらステラのことを助けてあげたりしたら恩返しにはなるだろう。


「それよりアランさんはどうしてしつこく訊いてきたんですか?」


 ステラは話を変えて、そういう疑問を投げかけてきた。


「今まで剣だけを極めてきたのに魔法の方が適正があると言うのが信じられなかったんだ」

「確かに、剣を続けてきたなら攻撃魔法の潜在能力が、あそこまで高いのは不服ですよね」

「ああ」


 仮に本当に、潜在能力が高かったらそりゃ嬉しいさ。でもそれ以上に今までやってきた剣技を捨てるなんて、そんな選択肢が出てくるそれが嫌でどうしようもなかった。


 と、そこでステラが何かを思い付いた様に手を叩くと一つ提案してきた。


「なら、魔法剣士になれば良いのでは?」

「魔法剣士か……」


 悪くはないだろう。でも魔法を使いながらを剣を振るう万能職。しかし、万能だからこそ器用貧乏の弱い職だとも言われている。


「今までやってきた剣技と、攻撃魔法の潜在能力マックスの力が合わされば負けなしですよ! ……ああ、ごめんなさい」


 ステラは興奮気味にそう言ってきた。自分でもそう気づいたのか、勢いよく話した後謝罪の言葉を入れてくる。


「両方諦めるなんてもったいないと思います。一度挑戦してみては?」

「そうだな……」


 魔法剣士なら師匠から教わった剣技を捨てることもない。どうせ今はソロ活動中だ。誰にも迷惑かけることなどないのだ。自分のしたい様にしよう。


「そうだな。ありがとうステラ。俺、やってみるよ魔法剣士」

「楽しみです!」


 俺はここで魔法剣士としてやっていくことに決意した。



***



 魔法剣士としてやっていくなら、やらないといけない事は沢山ある。

 でもその前に


「ステラはここら辺に住んでるのか? そろそろ帰った方がいいだろうし、送ってくいくよ」


 話も一段落ついたのでステラを家に帰さなければ。服装的にここの人で間違いはないだろうし。


「……そうですね。そろそろ帰りましょうか」


 何か言いたげ様子だったものの、俺の言葉に賛成する様に立ち上がった。

 少しその様子が気になったが、大したことはないだろうと、思いそのまま何もなかったかの様に送ることにした。


 家に着くまでの間、色々話した。


 ステラの事だったり俺の事だったり、とにかく沢山話したと思う。

 おかげでステラの事が結構知れた気がする。


 ステラは今17歳。10歳の頃に父親が死んで、今は母親と妹と三人暮らしをしているらしい。母親の稼ぎだけでは足りない為、ステラも稼がなければいけない。


 回復魔法が使えるため攻略者になることも考えたらしいが、攻略者は危険な仕事だ。妹を残して死ぬかもしれないと言うこともあり、今の仕事を選んだらしい。


「本当に大変だったんだな」

「いえ、別にそんなことはないですよ」


 大変だっただろうに、笑顔で返してくる。年下なのに俺よりしっかりしているな。


「困った事があったらいつでも助けに行くから」

「……ありがとうございます」


 俺は頑張っている人の力になりたい。そう思って言った言葉に、ステラは少しだけ震えた声をしながら返事をする。


 そしてステラはたくさんの事を教えてくれた。

 信頼されてるみたいで何だか嬉しい気持ちになる。


 そんな風にお互いの事を話していると、家に着いた。ある程度の距離はあっただろうに、時間はそこまで経ってない様な気がした。


 心から楽しいと思って話した事も久しぶりだったかもしれない。


「お姉ちゃん!」


 家に着くと、10歳にも満たない様な少女がステラを出迎えてきた。これがステラの妹か、と密かに納得する。確かに顔立ちもよく似ている。


「ただいま。ノエル」


 ノエルと呼ばれた少女は、ステラを見つけると一目散に飛びついていた。


「お姉ちゃん! 良かった。何かあったのかって心配で」

「大丈夫だよ。ノエルを置いてどこかに行ったりしないから」


 わんわんと泣くノエルを抱きしめて、ステラは慰めていた。


 そして数分後、落ち着いたのかステラはノエルの頭を撫でると一歩下がってこちらを向いた。


「本当にありがとうございました」

「いやいや、こちらこそ本当に感謝してる。ありがとう。また会う時があったら、よろしくな」

「……はい。そうですね。その時はまた」


 最後に握手をしてその場を離れようと踵を返した。


「アランさん!」


 別れの言葉をした筈のステラからそう大きな声で呼ばれた。


「わ、私を、私も一緒に……」

「うん?」

「……いえ、本当にありがとうございました」


 ステラはもう一度お礼を言って深々と頭を下げてくる。


「ああ。こちらこそ本当にありがとうな」


 様子のおかしなステラに不自然さを覚えたものの、お礼を言ってその場を後にした。

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