検索結果

 コースケは、格納庫奥のプレハブ小屋に1人残って調べ物をしていた。何台も並んだデスクトップPCのうちの1つに電源がついている。室内は薄暗く、電球色のデスクランプとブラウン管モニターの明かりが、コースケの顔と手元をぼんやりと照らしていた。

 

 PCを操作して、コースケは『gooplex.com』にアクセスした。Webページには、Gooplexのロゴと検索窓が表示されている。検索窓に『アポロ11号』と入力しエンターキーを叩くと、すぐさま検索結果の一覧が表示された。


「なんだこれ……」

 驚きの声が漏れる。検索結果は想像と大きく違っていた。『アポロ計画の真実』『月面着陸は嘘 アポロ11号を取り巻く陰謀論』『月へ行かなかったアポロ』『宇宙開発の裏側』『Moon-Landing Hoax』『NASA lied about the Moon landing』『監督はキューブリック!?』『ISA、隠蔽体質は変わらず』『ISAとアポロ11号の謎』など、画面は否定的な論調の記事で埋め尽くされていた。


 コースケは前のめりになって、マウスホイールで検索結果をスクロールする。何ページも遡ってみるが、そこに月面着陸を肯定する情報は見当たらなかった。


「まだ帰ってなかったの?」

 背後から声がした。声の方を向くと、ドアの前にエリが立っていた。


「そっちこそ」


「端末忘れたから」


 エリはコースケの横まで来ると、PCの画面を覗き込む。コースケの手からマウスを取ると、興味深そうに検索結果を斜め読みした。

「アポロ、か」


「どう思う?」


 コースケの問いかけに対して、一呼吸置いてからエリは言った。

「私個人としては、月面着陸を信じてる。というか信じたい。80年前に人類が月に降りたなんて、ロマンじゃん」


「でも……」

 エリは申し訳なさそうに言葉を濁した。


 そして、落ち着いた口調で続ける。

「客観的な証拠に欠けるし、今ある情報だけじゃ他人も自分自身も説得できない。できる限り希望的観測はしたくない」


 希望的観測という言葉がコースケに突き刺さった。同時に、疑いもなく月面着陸を信じている自分がどこか恥ずかしくなった。


 エリは机の上に置かれた携帯端末を見つけるとポケットに入れた。

「先行くね」


「うん、お疲れ」


 コースケは、一通りWebサイトを読み漁ったあとで、連想ゲームのように記憶を辿った。自分はアポロの月面着陸をどこで知ったのか。その場所に行けば、何かがわかる気がした。暫く考えたあとで、思い当たる場所が脳裏に浮かんできた。

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