ジャイロセンサー

 その日の夜、3人はいつものように研究室に集まっていた。テーブルを囲むようにしてパイプ椅子に座り、ラップトップPCを広げる。


「朝言ってたあのジャイロの件、確認してみたんだけど、やっぱりそれで間違いなさそう」

 コースケがラップトップPCで打ち上げのデータを見ている。


「機体姿勢のデータは使い物にならない」

 そう話すと、エリは疲れた表情を浮かべた。


「そのデータがヘンなことになってる原因なんだけど、これを見ると……」

 コースケは、スクリーンを使って2人に打ち上げの映像とデータを見せた。上昇していくロケットの姿と受信した各種データが映し出される。


「ここのところ」

 コースケはラップトップPCのキーボードを叩いて、ジャイロセンサーの値をクローズアップした。画面にはロケットの映像とジャイロセンサーが推定した機体姿勢が並んで表示される。ロケットの機体姿勢は、細かく振動しながら軸があちこちにぶれていた。


「ノイズか」

 レンは言った。

 

「多分マックスキューの時、ロケットの姿勢を計測するジャイロセンサーが振動と圧力にやられて、値にノイズが入るんだ」

 

「つまり、正しく飛行していても、間違ったデータを元に、姿勢制御システムが軌道修正を試みようとする……これが原因で不必要なスラスターの噴射が発生するってことか」

 エリの理解は早かった。

 

「機体の振動は、ある程度覚悟しないと。もっといいセンサーに変えれば手っ取り早く問題は解決できる」

 レンは提案した。


「でも、精度いいやつは高いし」

 コースケは椅子に深くもたれかかり、天井を見上げた。


「一応じっちゃんに相談しに行くか。2人とも明日は?」


「空いてる」

「大丈夫」

 レンの問いかけに対し、コースケとエリは頷いて答えた。


「そういえば、HALはどうする?」

 エリが言った。3人は格納庫の片隅に置かれたロボットに視線を移す。電源が落ちたまま、放置されている。


「コースケが拾っちゃうから」

 レンが唇を尖らせて呟く。


「僕のせい!?」

 

「それで、ちょっと提案なんだけど」

 エリは少し大きめの声で言った。コースケとレンがエリの方を見る。

 

 エリは続けた。

「ロケットの問題がハードなら、しばらく私の出番は無さそうだし、直せないかいじってみてもいい? この機会に中身を見てみたい。このまま置いとくのもかわいそうだし」


「助かる。何かわかったらすぐ教えて」

 コースケは言った。


「あれ、いま何時だ?そろそろじゃない? コースケ、テレビ」

 レンがキョロキョロと時計を探しながら言った。

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