第4話 その女、健康庁第四課製薬担当

 歩きながら、携帯電話のボタンを押していく。


 間違い探しをしていたときの、同僚。


 呼び出し音。


 十回で、出た。暇なときの、電話の出方。呼び出し音が二桁を越えれば、暇なとき。


『焔美』


「どうも」


『戻ってくれる気に、なった?』


「全然」


 間違い探しをするだけの日々が、楽しいはずがない。


「情報がほしい」


 この電話回線は、盗聴されない。公官庁で使っていたホットライン。


『別な課に電話した方がいいと思うけど。私はいま健康庁』


「麻亡製薬について」


『あら』


「企業の内部情報と、社長の場所」


『今から潰れるよ。その企業。いま情報サイト経由で、政治家との汚職が』


「うん。私が流した」


『うわ。ファイアクラックしたのか』


「ええ。趣味で」


『じゃあ、それ関連ってこと?』


「違う。趣味で薪をしてたら、依頼されてね。その依頼関係で」


 ファイルについては、教えない。公官庁を敵に回すと、倒せなくはないが厄介になる。


『じゃ、麻亡製薬について。表、裏、どっち?』


「両方。私ぜんぜん知らないから」


『表は、ジェネリックを基本とした新規参入の製薬会社。できてから十年。国の案件も狙ってる』


「表ね」


『裏は外国のシンジケートの国内窓口。売るのは薬じゃなくて、ウイルスのほう』


「ウイルス?」


 シンジケートが、そんな扱いづらいものを使うことはない。彼らの脳には、出世欲と硝煙しか詰まっていない。


『製薬会社と見せかけて、わりとサイバー系なのよこれが』


「サイバー系」


『コンピュータウイルスをパッケージ化して、売ってるの。ジェネリックの研究に使う機材を流用して、大規模なデータサーバを作ってる』


「そのサーバの維持と管理のために、政治家の後ろ楯が必要なわけね」


『そう。だから今ごろ、サーバの国外退去作業真っ只中よ』


「燃やせるかしら」


『私も噛んでいい?』


「私の受けている依頼に、干渉しない範囲ならば」


『やった。いま大きめの草刈りが終わってて、暇だったの。サーバへのアクセス権を奪ってくるわ。いつもの共有フォルダでいいかしら』


「たすかるわ」


『あなたの仕事に干渉しない範囲で、サーバの中身とか社長の身柄とかもらっていい?』


「どうぞ。ご自由に」

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