第25話 アクエリアス支配者ボルックス攻略3

 ペテルは水路に沿って、来た道を戻っていた。

 帰りは水路の中ではなく、整備された道路を歩いて。である。

 盗賊の首領の姿だった。


 そろそろバッテリーが切れるな。

 そう思ったペテルは、適当な近くの民家の中に扉を開けて入った。

 中には誰もいなかった。


「鍵もかけないなんて、不用心だなぁ」

 あたりを見回しながら胸のパネルを操作する。

 変身が解けた。

 この変身は、やはり結構バッテリーを使う。

 ボルックスの屋敷に向かうときに、水中を進んだのは気づかれにくいというのもあるが、何よりバッテリーを温存したかったからだ。


 最初から盗賊の首領の姿で行ってもよかったのだが、バッテリーの充電が心もとなかった。

 太陽光で充電もできるが、最近曇り空が続いたのと、あまり充電できる機会がなかったのだ。


 あれよあれよという間にここに連れてこられたし、エルフの村ならいざ知らず知らない街中で、宇宙服を堂々と充電はできなかった。

 充電している間に、大事な宇宙服を持ち去られては目にも当てられない。

 知らない土地で、これ以上盗まれたり持ち去られたりする目に合うのは、ゴメンこうむりたい所だった。


 民家の中には、タンスやテーブル。ツボやタルが置かれていた。

 ペテルはなんとなく、無断でタンスの引き出しを開けて、中身をあさり始めた。

 特にめぼしい物は見つからなかった。


 ツボやタルの中も覗き込んだ。

 特にめぼしい物は見つからなかった。


 割ってもよかったのだが、大きな音がするといけないのでそれはやめておいた。

 民家から堂々と出て、スピカやベガが待つ、隠れ家へと戻った。

 街中には、普通の市民も魔物も歩いていた。

 特に問題なく。市民に紛れて、ペテルは隠れ家に着くことができた。




「ねぇねぇ。スピカ、それとベガ。見てきたよ」

 隠れ家に着くなり、ペテルは二人に話しかけた。


「勇者殿はよくご無事で帰ってこられたものだ」

 ベガが、感心して息を漏らす。


「さすがは勇者様ですわ。それで、どうでしたの?」

「ウン。なかなかヤバかった。さすがは将校だね」

「それはそうでしょう」

 ベガがうなずく。


「でも、近づけさえすれば勝機はあるかなぁ」

 ペテルがベルトを取り出す。


「こいつを取り付けることができたら、勝てるかもよ?」

「それはなんですか?」

 スピカがブラブラと揺れるベルトを見て首をひねる。


 ハマル団の首領から取り返したベルトだった。


「それでね。作戦があるんだ。ちょっと耳を貸して」

 スピカの長い耳と、ベガの耳毛が生えた耳がペテルの顔に近づく。

 ペテルは小声で作戦を二人に説明し始めた。




 翌々日の昼間のことだった。

 ボルックスの館に、客人が訪れた。

 3人だった。

 正確には、一匹の魔物とエルフの女性と男性一人。

 もっと詳しく言えば、女性の方はエルフで、男性の方は年配の騎士だった。


「ボルックス様に面会したい。勇者一行の、仲間を捕らえたと報告してくれ」

 ロープで縛られた二人を連れてきた、その盗賊の首領は門の前の魔物にそう言った。


 3人は大広間に通された。

 そこで、ボルックスが出てくるのを待つ。


 しばらくして。


「勇者一行を、捕まえたとのことだな?」

 ボルックスが、奥の部屋から一輪車を漕いで出てきた。


「その二人がそうなのか?」

「はい、この二人は勇者に味方する、愚かな者たちです」

 ペテルが二人を差し出すように、軽く押した。


「肝心の勇者が居ないようだが……?」

「そのことについてですが、大事なお話が……」

 周りを見渡す。

 まばらではあるが、他の魔物やモンスターの姿もちらほら見える。


「申し訳ありませんが、内密の話なので。聞かれるとマズイのです。他の魔物たちを下げてはもらえませぬか?」

「ふむ……」


 ボルックスは、少し考えた後。

 まあ、いいだろう。

 パチンと、指を鳴らす。


 周りの魔物やモンスターたちは、合図を聞くと消えたり、別の部屋へと出て行ったりした。

 大広間は、ボルックスとペテル達3人だけとなった。

「さて、聞かせてもらおうか」

 ボルックスは一輪車の上に、バランスよく足を組んで腰かけた。


 ブウウウーン。

 ペテルが静かな音を立てて、変身を解く。

 同時に後方で、縄を解いたスピカが杖を装着する。

 ベガが、槍を突き出す。


「ボルックス! 貴様を倒しに来たよ!」


 ペテルは、腰の剣を抜いた。

 そしてボルックスに向けて構える。

 ボルックスはその光景を見て、

「フッ、ククク……」

 小刻みに体を揺らし、手に口を当てる。


「やはりな。オカシイとは思っていたのだ」

 一輪車の上で、膝を組んだまま笑っている。


「お前が勇者か?」

 もう一度、パチンと指を鳴らす。

 扉を開け、その場にたちまち。

 取り囲むように、20匹ほどの魔物やモンスターが周りに現れた。


「そうだ! 勇者ペテルだ!」

 周りの魔物たちには目もくれず、ペテルが言い放つ。


「バカめ! 八つ裂きにしてやれ!」


 パチンと指を鳴らす。

 待っていました。かというように、周りの魔物か一斉に襲い掛かろうとした。

 バチンッ!!

 しかし魔物やモンスターたちが全員、見えない壁にはじかれる。

「結界です!!」

 スピカが杖を立て、床に手を置いて叫ぶ。


 四方に立方体の形に、バリアのような薄い壁。

 バリバリと音を立て、目を凝らせば見える程度に結界は具現化した。

 ペテルの位置近くを中心にして、一辺当たり5Mほどの立方体が浮かび上がる。


「な、なんだと!? いつの間に!?」

「お決まりの、セリフ過ぎだよ」

 ペテルは失笑する。

 前回屋敷を訪れた時、あちこち見て回るフリをして。

 結界の元になる魔法の印をスピカから預かり、部屋の隅に配置しておいたのだった。


「フッ。まあいい。こうなれば、皆殺しにすればよいこと」

 ボルックスの頭上に、球が。カードが。剣が次々と現れる。

 1個、2個、4個、7個、9個。

 それらを次々とジャグリングしはじめる。


「さあ! ショウタイムの始まりだ!」

 ボルックスは雄叫びをあげた。


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