第24話 アクエリアス支配者ボルックス攻略2

「騒々しいな。こちとら、来客中だというのに」


 ボルックスは、一輪車ごと男たちの方へ向き直った。


 体格の良い重戦士のような体つきの男が前方に立ち、構えながら涙ながらに言った。

「だまれ! 貴様のせいで、俺の息子は病気なのに水が飲めなくて死んだんだぞ! 街中には溢れるほど水が湧いているというのに!」

「ふむ、それは病気のせいでは?」


 顎に手を当てワザとらしく首をかしげる。

 仮面の顔を小刻みに揺らす。

 どうやら笑っているらしい。


「なにが、可笑しい!」

 剣を構えて、別の男が叫んだ。


「これは失礼した。別の客人が来たということにして、もてなそう」


 ボルックスの右の手に。左の手に。次々と剣が、カードが、カラフルなボールが現れる。

 現れるたびに、それを空中へ放り投げる。

 ボルックスがそれらをジャグリングしだした。


 規則的な軌道を辿って、一定の放物線を描きはじめた。

「さしずめ、血のように赤いワインなどどうかな?」


 その中のカードが1枚高速で飛んでいき、二番目に前に出ていた男の頭に、兜ごと深く突き刺さった。

 血しぶきをあげて、後ろに倒れる。


「んなっ!?」

「よそ見している場合か?」

 円盤のようなものが、ジャグリングの中に加わる。


「アンディパストは、生首のブルスケッタと、いこう」


 空中から円盤が飛ぶと、相撲取りのような男の後ろにいた、3人の首が円盤に斬りとられた。

 円盤が生首を乗せたまま、後ろの壁に突き刺さる。

 あっという間に、6人になった。


「くっ! くそう!」

 一人の若い戦士が、がむしゃらに飛び出す。


「お前がプリモ・ピアットか?」


 ボルクッスが次々とジャグリングしている物を高速で投げつける。

 若い戦士は、次々と剣でそれらを跳ね返し、はじいて行った。


 おお、これは行けるんじゃないのかな?

 ペテルが、人知れず期待を抱いた瞬間。


「ヘブッ!?」


 若い戦士は、足元にぶつけられたスパゲティのような形のトリモチに足を取られて、勢いよく転んだ。

 そこに、背中にクルクルと空中に回った剣が突き刺さる。

 若い戦士は、あと1Mほどでたどり着く。という所で絶命した。


「う、うわあああ! かかれ! かかれえええ! とにかくあいつを一輪車から引きずりおろせええええ!!」

 重戦士のような男が喚き散らす。

 この男がリーダーのようだが、やれやれとペテルは首を振った。


 ペテルはこれは、指揮官として最低な判断だと思った。

 ペテルの想いを知らずして、5人はそれぞれの武器を振りかざし立ち向かっていく。

 5人はなかなかやるもので、ボルックスの攻撃を次々とはじいていった。


 その中で、指揮官の男がボルックスに向かって突撃した。

 山のような体ごと、ボルックスの腰にタックルする。

 まるで、オーガ同士が立ち合ってぶつかり合った時のような衝撃。

 空気や地面が揺れた気がした。


「どうだ! 俺のタックルは猛牛の突撃を止めたこともあるんだぞ!」

 しかし、ボルックスは微動だにしなかった。

 一輪車もボルックスも、ピタリとも動いていない。

 平然としている。


「どうした? ワタシは牛ではないのだがな?」

 タックルした姿勢のままの男を、剣で串刺しにしようとする。



 バカな!? 動かない! 動かないだと!?

 男の額にダラダラと汗が流れ出す。 

「うっ! うわあああああっ!!」

 別の男が、ボルックスにタックルをかます。

 3人、4人。

 5人もの男が体当たりをかましても、ボルックスは微動だにしなかった。


 大木にタックルしているようなものだった。

「この一輪車から引きずりおろせば。ワタシを床に倒せばどうとでもなると思っていたのか?」


 一輪車を漕いで、5人を引きずりながらゆっくり前進する。

「心外だな。例えアルデバランに体当たりされたとしても、ワタシが一輪車から落ちることはない。動かすことすらできぬよ。魔王様の前でさえ、一輪車から降りることがないのでな」

 チッチッチッ!

 舌打ちしながら、人差し指を横に振ったあと。

 ボルックスが、ゆっくりと回転を始める。


「そんなわけだ。貴様らにはセコンドピアットと、なってもらおう」


 急速に回転が早まる。

 ぐんぐんと回転の速度が増す。

 竜巻のような回転。

 遠心力で、5人が空中に浮かぶ。

 おぞましいほどの回転だ。


 土星の輪のように、タックルしている彼らの残像が見える。

 遠心力に耐え切れなくなり、次々と手を放す。


 彼らは壁に飛び、血をまき散らすか、骨折するかで命を落とした。

 最後までしがみついていた、重戦士のような男も、

「いいかげんにしろ。ワタシはそろそろエスプレッソを楽しみたい」


 両腕を斬られて、絶望の表情のまま、とばされて。あわれ、壁にぶちまけたケチャップのようになった。

 ボルックスは徐々に回転を緩め、ピタリと一輪車に乗ったまま回転を止めた。


 攻めてきた奴らが、全員死滅したことを確認して満足する。

「お待たせした。それでは勇者の情報を聞こうか?」

 ボルックスは、振り向いた。


「ぬう?」

 しかし、そこに盗賊の首領の姿は無かった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る