第13話

「ねえ、今良い?」

「ん?」


 授業が終わり、トイレに行こうと廊下を歩いていると、後ろから声をかけられた。


「……誰?どこかで会ったことは?」

「ふーん、私を知らないなんて、見立て通り変わった男ね」


 随分自分に自信があるようだが、知らない人を知っている何て言うほど、お人好しじゃない。

「私の名前は北条 真美(ほうじょう まみ)。

 二年三組よ」

「俺は佐伯 海。二年一組」


 違うクラスなので知っているはずがない。同じクラスの人でさえわからないこともあるのに。


 この女子の見た目は、物凄く目立つ金髪をゆるくパーマをかけ、葉山ほどではないが十分すぎるほど目鼻立ちも整っている。胸の方は……見なかったことにしよう。

「今なに考えてた?」

「……いや?何も。それより俺に何かようか?」


 見た目から溢れ出るリア充オーラ、本来俺と別世界の人間だ。余程の事がない限り話しかけては来ないはずだ。

「あなたの友達に、澤井 陽一って男がいない?」

「陽一か?いるけど」


 そう返すと、少しもじもじし、言いづらそうにしている。心なしか顔が赤い気が……。

「わ、私と澤井 陽一が付き合えるように、手伝ってくれないかしら?!」


 ……これまた面倒くさいことになった。今はあいつと春風さんの恋路を応援している最中だってのに。

 断るべきか受け入れるべきか迷った俺は、一先ず話しを聞くことにした。




____________________________________________



「あっ、来た」

「すまん、遅れた」


 あの後昼休みに集まることを約束し、昼飯を食べてから集まることにした。


「じゃあ、あなたを頼った経緯を話すわ」

「ああ、頼む」

「あれは入学式だったわ。彼を見た瞬間電撃が身体中を巡った感覚になったわ」

「へぇー」

「それから彼の事を見ていると、色んな彼の素晴らしいところを発見できたわ」

「ほー」

「誰にでも優しいところ、運動神経が抜群なところ。紳士なところ。全て兼ね備えた人物だと思ったわ」

「そうか」

「気づいた時には恋に落ちていたわ。今は彼の事しか考えられない」


 北条の想いは本物だろう。陽一の事を話すときの北条は楽しそうに話していた。

「でもどうして俺に?あいつにはたくさん友達がいるだろ?」

「いいえ、あなたと他の友人と話すときの態度は全然違います」

「そうか?そんなに変わらない気がするんだけど」

「あなたと話すときは楽しそうに、本心で会話をしているように思えますが、他の友人と話すときは、一線退いている感じがします」


 北条の観察眼が宛になるかは分からないが、一年以上見てきているのならば、案外外れていないのかもしれない。


 だが、その想いだけで恋が叶うのならば、誰も苦労などしないだろう。

 だが、結末を言ってしまうのも野暮な話だ。

 バレないように断ることにしよう。

「すまないが他を当たってくれ。俺も生憎暇じゃないでね」

「彼と幼馴染みをくっつけるために?」

「そうそう、その通り」

 ……ん?今なんて言った?

「な、何でお前知ってるの?!」

「彼が私に興味がない事ぐらい、話しかけた時に分かっているわ」

「そ、そうなのか。なら諦めるんだな」

「え?」

「陽一の事を見てきたんだったらもう知ってるんだろ?あいつは春風さんにしか興味がない事ぐらい」

「…」

「その感情は閉まっとけ。もし抱き続けても自分を傷つけるだけだ」


 俺はそう言って教室を出る。

 世の中、どんなに頑張っても変えられない状況がある。

 それでも諦めずに立ち向かう者、身の程を弁えて、早々に諦める者。

 俺は圧倒的後者だ。当たり前だ。無駄な感情は自分を傷つけるだけで、何の役にも立ちやしない。

 俺は不慣れなことをしたせいか、変な気分になったが、静かにクラスに戻ることにした。

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