第12話

「おーい、海!どうだった?!聞いてくれたか?!」

「言うからそんながっつくな。といってもほとんど葉山のお陰なんだけどな」


 今は授業が終わり、休み時間。授業が終わって直ぐに聞きに来るということは、相当知りたかったんだろう。愛が重くて大変なことにならなきゃ良いけど。


「で、どうだって?!」

 春風さんが陽一の事が好きというのは伏せないといけない。

「今は誰とも付き合っていないし、全く恋愛に興味がないという感じではなかったぞ」

「そ、そうか。俺にもチャンスが……」

 と、喜び、次への意気込みを喋ろうとして、陽一が固まる。


「どうした?」

「いや、俺がそれでもアタックしにいかなかった理由知ってるか?」

「いや?知らんけど」

 一つ深呼吸をした陽一。

「あいつモテるんだよなー。だから近寄れなかったんだよ」

「お前が言うなお前が。……確かに近寄りづらいかもな」


 陽一と春風さんの立場上、安易に近づいてしまうと、よからぬ噂が立ちかねない。それはどちらも望んではいないはずだ。


「幼馴染みなんだから理由作って、学校以外で会えば良いのに」

「それも考えたけど、あいつは優しいから、嫌だった場合断れないかもしれないだろ?お互い高校生なんだし、予定の一つや二つは入ってると思うし」

「うーん、ああいう人は嫌だったら断るっぽいけどなぁ。まあ幼馴染みのお前が言うんだからそっちの方が正しいんだろうけど」


 信頼というのは、長い年月一緒にいれば、少なからず厚みが増していくものだろう。

 その時間が長ければ長いほど、違う感情も募らせてしまうのだろうが……。


「まあ今日はサンキュー!進展したぜ!」

「お礼なら俺じゃなくて、葉山にしておいてくれ」

「わかった!きょうの昼休みにお礼言っとくよ!」

 そう言って陽一は違う友達のところに向かっていった。


 人気者というのは大変だな。色々な所に顔が知られて、良い噂も悪い噂も立ちやすい。俺には無理だな。人気者になることも、なった後に維持することも。

 一人で考え事をしていると、スマホが短く振動した。

菫『澤井さんに昨日の事伝えましたか?』

 どうやら葉山かららしい。

海『ああ、話したよ。春風さんの立場上近づけ

  ないとか言ってたな』

菫『アキちゃんも同じ事言ってました!どうし

  ても相手の事を考えてしまうって』

海『二人の優しさなんだろうな』


 春風さんも同じ考えだったらしい。人気者とはいささか不便なものだな。意中の相手とぐらい話しをしても良いと思うのだが、周りは許してくれないらしい。


 俺は元々周りを気にしないタイプだったが、葉山と付き合いだしてからは、少しずつ気にすることも増えてきた。

 環境の変化とは恐ろしいな。考え方さえも変わってしまう。


 うまくいくと良いな、と考え、俺は次の授業の準備をすることにした。


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