第2話 休憩

カランカラン、とドアチャイムの小気味いい音が鳴る。

「いらっしゃー...。なんだ、こまちーとにー君か。」

バーカウンターの内側にいたTシャツ姿の男が、仁科と小町を見て言った。

「なんだって、なんだよ。ちゃんとお客だろ。マスター。」

小町がそう特に不満でもないように言う。

「常連さんもいいけど、新規のお客さんも欲しいとこなのよ。」

まあいいや、とマスターと呼ばれた男はつぶやく。

「コーヒーかお茶、どっちにする?」

そう聞きながらも、もうコーヒーカップを取り出している。一応建前として聞いてるが、この二人はコーヒーしか飲まないことを知っている。実際に二人も、いつもの、コーヒーでお願いしますと返事をした。

「また残業なの?」

ミルにコーヒー豆を入れ、ハンドルを回しながらマスターは聞いた。

「残業がない日のほうが珍しいさ。」

小町がため息をつきながら答える。

「検査機が故障したって泣きついてきてな。怪しい部品調べてんだが、資料もばらばら、おまけに紙はカビに侵されたときたもんだ。」

「おまけに”旧時代機”ですしね、メーカーも”消滅”していますし...。」

あらあらとマスターがサイフォンにコーヒーの粉を移し替えながらつぶやくと、店の片隅にある音楽を流していた古いステレオが、ニュースキャスターの声を流し始めた。

『六時になりました。ニュースをお伝えします。』

「こんな時間か。」

小町がつぶやく。

『あの日から間もなく20年がたとうとする中で、世界中で追悼式典の準備が進められています。日本でも、東京をはじめとした各都市で準備が進められており......』

若干ノイズが入り混じるその声を聴きながら、

「そうか、もう20年か。」

とマスターはつぶやいた。

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