07 (一旦終了)プリンセス、現代日本で暮らすことにする

「え、えと。ごめんなさい。隠すつもりだったのに、つい。本名なもので」


「プリンシア」


「やめてください。その。アポネスでの地位なので」


「参ったなあ」


「ここにいるのは、あなたのほうが長いのだから、色々と、その、教えていただけるとありがたいわ」


「分かりました。プリンシア」


「階級は、ここには、存在するの?」


「あ、いや、貴族と平民などの差別はありませんが」


「なら、さっきのように接してほしいわ」


「もしかして、あなたも」


「顔を知らないおかたと結婚するのがいやで。気づいたらここに」


「そうなのですか。同じですね」


「ああ。なんかこわい」


「えっ」


「夢みたい。これが、覚めてしまうのが、こわい」


「あ、それは大丈夫だと思います」


「え?」


「わたし、アポネスからここに来てもう3ヶ月です。寝ても起きても、ここです」


「そう、なのですか?」


「はい。どうやらアポネスでの暮らしがいやだとここに飛ばされるらしくて。あ、執相に聞いたことなのですが」


「執相。もしかして、アポネスの前執相?」


「ええ」


「ここに、いるのですか?」


「いるもなにも、この漫画。アポネスの貴族の作者が執相ですが」


「うそ」


「いやあ、うそを言っても仕方がないなあ」


「会いたいのだけど」


「今は夜なので、むずかしいと思います。いちおう連絡は取ってみますが」


「連絡がとれるの?」


「電話ですけど」


「すまほ」


「なんか、かわいい発音ですね」


「私が出ても、いいかしら」


「出るかどうか。あ、出た」


 差し出される。すまほ。


「どうぞ。耳に近付けて」


 彼の、手が。頬の辺りに。


「どうぞ。喋ってみてください」


「執相。我が年齢詐称の共犯者よ」


『そっ、そそ、その声は。まさか。そんな』


 声。かなり明瞭に聞き取れる。執相の声だ。


「どうも。ヒノウです。目の前にですね、プリンシアエイスが」


『替わってくだされ。姫殿に。後生だ』


すごい大きな声。


「はい。わかりました。どうぞ」


 再び、彼の手が、頬に。くすぐったくて、つめたくて。気持ちいい。


『姫殿。姫殿』


「執相。なるべくはやく、会いたいのだけれど」


『それはもう。どうぞどうぞ。いまどこにおられますか。すぐに迎えの者を』


「夫も共に」


『夫?』


「いやその、さすがに早すぎませんか?」


「恋愛は自由なのでしょう?」


「それはまあ」


「好き合っているのだから」


『姫殿。もしやヒノウ殿と』


「ええ」


『それはめでたい。仲人はわしが勤めさせていただきますぞ。おいっ。はやく車を』


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る