寝起きの自販機に目覚ましの唾を

360words (あいだ れい)

1:前日談の前日談

 徹夜明けの頭はふらふら。

 コーヒーでも買おうかと、オフィスを出る。

 いつまでたっても工事が来ない工事中のエレベーター。

 仕方なく階段を使う日々が、もう2年は続いている。


 外に出ると、ビル街の隙間から朝日がなだれ込んで僕の目玉を焼く。

 疲れた目には堪える一撃。

 うぅ、とうめきながら急ぎ足でビルの裏手に回る。

 雑居ビルの裏の月極つきぎめ駐車場の自販機へ。

 小銭入れをから取り出す10円玉6枚と50円玉1枚。

 無理矢理に全て飲み込ませる。

 いつも買ってるコーヒーのボタンにランプが付く。

 それをグーで2度叩く。

 甲高い電子音が朝のビル街に鳴り響く。

 正しくは、不当にコーヒーを吐き出させた、と犯人を非難する自販機の悲鳴だ。

 片耳を抑えながら、取り出し口に落ちてきた2つの缶コーヒーを羽織っているパーカーのポケットにしまい、その上から手を突っ込む。

 誰かが音を聞いてやってくる前に、と急ぎ足で雑居ビルに戻ることにした。


「買ってきた」と、自分の向かいのデスクに声を掛ける。

「いくらだ」

「120円」

「あいよ」

 こっち側にちゃらちゃらと小銭が入った茶封筒が飛んでくる。

「毎度」

 コーヒーを向こう側に投げる。

 書類の高い壁の向こうから、缶をキャッチしてプルタブを開ける音がしたので、僕も開けようと思う。

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