第十二話 百戦錬磨の悪鬼が如く-2
数分後、ハサミと傾狼は警察によって封鎖されていた地下鉄のトンネルに忍び込み、線路の上を歩いていく。
「薄暗くて前が見えないな。アニキ、何か視界を明るく出来るようなものになれないか?」
『ははーん、さては俺様の小粋なジョークが恋しくなったな? いいだろう! 俺様自慢の鉄板ネタでこのムードを明るくしてやろうじゃねえか!』
「…………」
『悪いな弟よ。俺様、ジョークは得意じゃないんだ』
「洞窟探検家がよく使ってる帽子とかはどうだ?」
『形だけならなれるだろうが……ものは試しだな!』
傾狼はヘッドライト付きの探検帽に姿を変える。
ハサミがヘッドライトのスイッチを入れると、電球から強い光が放たれる。
「ライトも再現出来ているな。流石アニキだ」
『はっはっはっ! もっと褒めろ! ぶっちゃけ電力までどうにかなるとは思っていなかったが、俺様の秘められた力に出来ないことはないってことだ!』
傾狼は宙に浮かんでぐるぐると回転し、自分の凄さをハサミにアピールする。
「そこにいるのは誰だ!」
しかし、傾狼のアピールを目撃していたのはハサミだけではなかった。
見回りをしていたCOMBの下っ端がハサミに気づいてしまう。
「むっ、お前は断髪式の右左原ハサミ!? 病院に運ばれたと聞いていたがどうしてこの場所にいる!?」
下っ端は侵入者を知らせるアラームを鳴らし、仲間を呼ぼうとする。
『何見ていやがるオラァ!』
「ぐふっ!」
傾狼は体当たりで下っ端の気を失わせ、口封じを試みる。
だが、アラームは鳴り止まず、ハサミたちの近くに足音が迫ってくる。
「迂闊だった。取り敢えず逃げようアニキ」
『だったら、俺様が行き先を照らすぜ!』
「いや、光りながら回転していると見つかりやすくなるからライトは消してくれ」
「……ここがCOMBに占拠されているというスカルプリズン南駅か」
ハサミと傾狼が物陰から駅の様子を覗き見る。
『見張りの数も多い。一昨日のように強行突破は難しいだろうな』
傾狼は学生帽に姿を戻している。
「全員の相手をしている余裕はなさそうだ。幹部を含む最低限だけを倒していこう」
ハサミは見張りに見つからないようにこっそりと進んでいく。
「しかし、カミキリ様は地下鉄の駅なんて乗っ取って何を考えているんだろうな」
「公共交通機関の規制が目的だとラセン様は仰っていた。なんでも、スカルプリズンの地下鉄は日本のヤマノテという鉄道線と似たような構造になっているため、一部を封鎖すれば全域の交通に悪影響が出るらしい」
駅のホームで二人の下っ端がそんな会話をしていた。
「どうやら、あいつらのボスはラセンって名前らしいな」
『良い情報だな。だが、名前だけでそんな簡単に見つかる訳が――』
「オーホッホッホッホッ! ワタクシの登場ですわ! 皆の者、恭しく首を垂れなさい!」
その時、高笑いと共に金髪碧眼の少女が下っ端たちの前に現れた。
レオタードの上にコートを羽織り、マスクで口元を隠した、いかにも悪の組織の女幹部と呼ぶべきような風貌の少女の年齢はハサミと同じくらいだった。
少女の金髪は頭の両側で結ばれており、それぞれ左右に螺旋を描くように巻かれて結び目から先に行くにつれて細くなっていくような髪型にされていた。
「この高笑いは――ラセン・スパイラル様ッ! お疲れ様でございます!」
少女の姿を見た下っ端たちは皆揃って首を垂れる。
「フフッ、下々のものがワタクシに首を垂れる姿は何度見ても愉快ですわ! それもそのはず、ワタクシはCOMB幹部の一人。カミキリ様以外はワタクシを隷属させることなど出来ないのですもの! オーホッホッホッホッホッホッホッホッホッ!」
ラセン・スパイラルは更に大きな高笑いをする。
「もしかしなくても、あの無駄に態度のでかい女がCOMBの幹部で間違いなさそうだな」
『わかり易い自己紹介をしてくれて助かるぜ』
ハサミと傾狼はラセンのすぐ傍に息をひそめていた。
「――さて、そこに隠れているお方、早めに出てきた方が身のためですわよ」
ラセンの縦ロールの内の片方がステップドリルのような形状に変わり、ハサミが身を隠している壁を貫いた。
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