第十一話 百戦錬磨の悪鬼が如く-1

「何度言えばわかるんだ!」


 カミキリによるショッピングモール襲撃の翌朝、スカルプリズン総合病院にフモウの怒声が響き渡る。


「貴様をもう一度カミキリと戦わせるなど、私が認めると思っているのか!」

「これは俺とカミキリの因縁なんだ。理解しろ鉄頭」


 看護師たちが病室に駆けつけると、ハサミとフモウが額を突き合わせて言い争っていた。


「右左原さん! アイアンヘッドさん! 何があったんですか!」


 病院服姿で取っ組み合う二人を中年の女性看護師が止めようとするが、二人は看護師の話を聞く様子もない。


「カミキリと幹部を倒すのは私一人で充分だ!」

「その怪我をした身体でどう戦うと言うんだ。俺の方がお前よりも傷は浅い」

「この程度の負傷、どうと言うことは――ぐはあっ!」


 フモウはベッドから起き上がろうとするが、昨日の傷はまだ癒えておらず、床に崩れ落ちたフモウを看護師たちが慌てて助ける。


「行こうアニキ、俺たち二人でカミキリを倒すんだ」


 ハサミはナイトキャップに姿を変えていた傾狼と着替えや装備の一式が入ったバッグを手に取り、窓の桟に足をかける。


「右左原さんは何をしているんですか! ここは七階ですよ!」

「看護師さん、フモウが無茶をしないように見ていてくれ」

「無茶をしているのはあなたですよ!?」


 ハサミは看護師の制止を無視して窓から飛び降りた。


「くっ……あの馬鹿……」


 フモウはハサミが飛び降りた窓を見つめて呟く。


 一方、窓から飛び降りたハサミは病院から抜け出し、いつものバンカラファッションに着替え、スカルプリズンの街中を歩いていた。


『ハサミ、焦る気持ちはわかるが、ちゃんと行き先わかってんのか?』

「当たり前だろ。まずは残った幹部四人の撃退だ」


 ハサミはスマホのマップでスカルプリズンの四か所に印をつけていた。


「続いてのニュースです。昨日、テロ組織COMBがスカルプリズンの施設を占拠するという事件について警察から情報が入りました」


 街頭のテレビモニターから放映されるニュースを見てハサミは足を止める。


「警察によると、COMBの幹部を名乗る四人が地下鉄、博物館、動植物園、発電所などを襲い、一日経った現在も各施設は占拠されているようです。幸いなことに死傷者や人質が出たという情報はありませんが、鎮圧を試みた断髪式は隊員の九割が戦闘で負傷したことにより、活動の一時停止を余儀なくされている状態だと発表がありました」

『完全にカミキリの思うつぼだぜ。断髪式で今動けるのはハサミと俺様の二人だけだ』

「俺たちが全て終わらせるんだ。COMBの幹部が一人、この周辺の地下鉄を封鎖しているらしい」

『行くんだな? 今のお前はメッシュブレードを失っているんだぞ』

「わかってるさ」


 ハサミは学生帽を脱ぎ、ショーウィンドウに映る自分の姿を確認する。

 ハサミのメッシュアホ毛は以前の半分程度の長さになっており、伸縮も硬化も出来ないただのアホ毛になっていた。


「カミキリが持っていたあの訳のわからない刀については警戒する必要はある。けれど、俺は例えEXスタイルを失っても人間として死んだ訳じゃない」

『そう言ってくれると思ったぜ!』


 ハサミは学生帽で口元を隠して微笑みを浮かべたが、すぐに表情を戻した。

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