第9話 私、次こそは先輩の彼女になるんだ!

「な、何かありましたか?」


久しぶりに彼女の顔を見て安心した俺は腰の力が抜けてその場で膝をついてしまう


「と、とりあえずタオルをどうぞ」


一旦落ち着いて俺はテーブルの近くに上野を呼ぶ


「ど、どうしました?」


「なあ、上野 なんで全部教えてくれなかったんだ...」


「ご、ごめんなさい でも、市川さんに言ったら天国には行くなって言うかと思って...」


「あ、当たり前じゃんか!

俺は君がいないとダメなんだって!

幽霊に何言ってんのって思うかもだけど〜」


もう言ってしまおう

自分では気づいてた

でも、もし、いなくなるとしてもこれだけは伝えておかなきゃ


「君のことが〜」


「何も知らないくせに!」


上野はこれまで以上に一番大きな声でこう言った

圧倒された俺は何も言うことができず、全身が硬直した

彼女はそう言った後、走ってドアをすり抜けた


「なんか、最初の時みてぇだな...」



○○○

その後、俺は家の周りを探したがいなかった

ちなみに相談所にも来てないらしい

色々あって気づけば1日が経っていた



「今日はお家デートじゃないですか!

ほら、先輩! 元気出してくださいよ」


「いや、勝手に家特定して入ってきただけだろ

どっかの幽霊か、お前は」


「なんですかそれ? 幽霊?」


朝比奈は勝手に家に来たくせに『帰らないです』の一点張りで、外も雨が降り始め、追い返し辛い状況になってしまった


「はい、夜ご飯できましたよ

あーん」


「自分で食うから良い

うちに泊めるのは無理だからな」


朝比奈はわざわざ元気のない俺にオムライスを作ってくれた

なんだかんだ俺は良い後輩を持ったのかもな


「上野って、大学でどんな感じだった?」


「そうですねぇ〜

友達は少ないタイプですね

でもとっても優しいですよ」


「悩みとかありそうだったか?」


俺が今から何かしてあげられるのだろうか

とか考えてだけど勝手に口に出ていた


「あんまりわからないですね

でもおばあちゃんがなんとかって話は少し聞いたことあります」


本当、何考えてんのかわかんねぇ


「そっか ありが〜」


「先輩、私先輩が好きです」


初めて俺は女性に"好き"と言われた


「な、なんて?」


あたふたしていた俺を見てニコっと笑う朝比奈


「私は本気です

先輩には私の事だけ考えて欲しい...」


そこから俺の鼓動のスピードは留まることを知らなかった


「俺が寂しそうだからってそこまでしなくても...」


これまであまり意識していなかったが、朝比奈が"女"であることを再認識する


「先輩、日曜日の夏祭り一緒に行きましょう

駅前集合です

ここに来たら告白はOKって考えますから」


そう言い捨てて家を出た

まだ俺の鼓動は鳴り止む兆しはない


○○○

これくらいなら、いいよね

だって、ずっと好きだったんだから

高校の時、私はずっと一人だった

人と話すのが苦手だった


「バスケめっちゃうまいね 経験者?」


「は、はい そうです」


一人でうずくまっていた私に初めて話しかけてくれたのは先輩だった

そこから先輩のおかげで私にはたくさん友達ができた


「先輩、今日までありがとうございました」


「大学受験も頑張れよ!

俺は先に大学生活楽しんでるぞ〜」


先輩がいなくなってからも私はいろんな人と話せるようになっていた

そんな私はいつしか先輩を好きになっていた

だから先輩の大学を聞いてからずっと勉強して、私はついに同じ大学に入ることができた


「先輩! 久しぶり!」


「おお! 元気だったか?」


とっても幸せだった

また先輩と一緒に


「あれ、一輝 この子誰?

めっちゃ可愛いじゃん」


この人の名前は早川桜

"彼女"だ









「私、次こそは先輩の彼女になるんだ!」

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