第2話 別れましょう、私たち

「とりあえず、内容を整理してもらっても良いですかね...?」


「私の名前は 上野うえのかな と申します

20歳の大学2年生です...」


「同い年の市川一輝です...同じく大学2年生」


「ってかなんで幽霊に?」


「私もどうして幽霊になったのかは謎です

気づいたら誰からも見えなくなっていて、見えているのは市川さんだけみたいです」




な、なんだその激アツ展開!

俺は救ってあげられればお付き合いを...とか?

って何考えてんだ俺!




「そ、そう言われましても...」


「頼れるところはここしかないんです!」


幽霊ってもっと怖いものかと思っていたら想像の2000倍くらい普通に人間というか...


「き、君は最終的にはどうしたい...のかな?」


「このままだと困るというか...」


たしかに自分の身がこんなになったら焦るか

かと言って今の俺がなんとかできる自信もないというか

ここで『君を助ける!』なんて出来もしないこと言って失望させるわけにもいかないし...


「とりあえず、取り憑いても特に何かが起きるわけではないんだよ...ね?」


「か、体が重くなったりはしないと思います

取り憑くとあなたの位置情報がわかるようになります

だからこの前みたいにわざわざ携帯を返しに行くのにも困らないわけです」


位置情報ってどういうことだよ、そんな幽霊って最先端生きてんのか?

あれ、死んでるのか?


「わざわざ携帯をハッキングしてロックを解除して、家を調べ上げるのは大変でした」


「うんうん、そうだよな...ってどういうこと!?」


一瞬で寒気が走る

これは幽霊だからだという感じではない


「こ、この家を調べ上げるのはとても大変でしたよ

ちなみにあなたの情報も全て調べ上げています...

この棚に友達の写真があることとか、ここにはちょっとエッチな...」


「勝手に触らないで〜!!」


この幽霊、もしかして...

若干ストーカー気質ある...?

怖そうで、怖くない...でもちょっと違う観点で怖い...


「ごめん、俺やっぱり君の力にはなれないよ!」


正直可愛いし、格好つけて力になると言おうと思っていた

ちょっと怖いし、

幽霊とか関係なく...


「そう...ですか

じゃあもう諦めます」


可哀想だが、無責任なことは言えないし

"俺は正しかった"と思いたい


「さようなら...」


彼女はドアをすり抜けてまたどこかに消えた

俺の選択は間違っていたのだろうか

でも、できないことはできない


〜翌日の朝〜

「あれ...もう朝か 大学行かなきゃ...」


いつも通り時計を止めて目を覚ますと、いつもではないことが一つ


「市川さん、おはようございます」


上野がまたここにいるということだ


「な、なんでお前また来たのかよ!」


よく見てみると机には美味しそうな和食一式が置いてあった

どうやら上野が作ってくれたらしい


「わ、私、絶対あなたの役に立ちます

だから、お願いです 

助けてください」


怯えている声だった

きっと不安で不安で仕方ないのだろう


「も、もう、わかったから、俺が手伝いするから」


ここで嫌だと言ってもおそらく彼女はここにまた来るだろう

家バレしてるわけだし...


「ほ、本当ですか! じゃあ、朝ごはん召し上がってください!」


こうして俺は、ストーカー気質のある幽霊に取り憑かれたのであった


○○○

「なんだったんだか...」


「どうしたよ、一輝」


「おう、拓馬 おはよう」


大学の朝の授業は毎回拓馬と同じで、この時間に互いに相談などをするが、昨日の話はさすがにキツいよな...


「サークルのメンバーで夏、旅行に行こうって話になってるんだけど、お前どうする?」


「ああ...えっと俺は...」


俺が真っ先に考えたのは元カノだ

俺は文化系のサークルに所属していて、同学年で元カノの早川桜はやかわさくらも同じサークルだ

つまりこの旅行に来る可能性も...


「桜ちゃんも来るって言ってたし、やめるか?」


フラれてから気まずいのは事実だ

SNSも全てブロックされていたし

まあ、すぐに恋人から友達なんて無理な話だよな...




〜1週間前〜

「急に呼び出してごめんね〜」


早川桜は人生で初めて付き合った彼女だ

ショートヘアが武器のサークル内でも相当人気がある

サークルで知り合い、告白したらなんと付き合えたのだ

もう付き合って3ヶ月だが、何度か桜の親に挨拶に行くほどの関係になっている

まあ、キスとか一回もしたことないけど...

でも、うまくいっているのは事実だ


「こ、こんな時間にどうしたの?」


SNSで急にカフェに呼び出され、俺は走って家からやってきた


「あのさ...言いづらいんだけど」


「金? 金ならいくらでも貸すよ!」


「違う 別れましょう、私達」


いつもの彼女はゆるふわ系の声だが、この時だけはいつもと違って冷たい声だった


「ちょ、何か不満があるんだったら言って」


「じゃあ、この後用事あるから

今日までありがとう」


いつも笑顔でみんなのアイドル的存在の桜は、その時だけは冷たい顔をしていたのを今でも覚えている

そのあと家に帰って死ぬほど泣いたのも、一生忘れない




「いや、俺旅行に行きたい」


「お、そうか」


桜は俺になんかもう興味ないだろう

桜は元々なんで俺と付き合ってくれたのかも謎だし

だが、俺は諦めたくない...



「授業終わったら食堂でどこ行くかとか話すから、時間空けといてくれ」


「お、おう...」


○○○

食堂にはサークル仲間がみんなもう集まっていた

もちろんその中には桜も...


「あ、一輝 久しぶり」


「あ、えっと... 久しぶり」


気まずい、でもなんと言っても逆に周りから気を使われてる感じがしてとても申し訳ない...


「行くなら熱海辺りが行きたいなぁ〜」


桜はやっぱり何度見ても可愛かった

服のセンスも完全俺好みの感じで、ベージュのゆるふわカーディガンに白T

そして胸元も大胆に出ている


「そ、それ賛成!」


喋っておかないと見ることに集中しすぎて頭が沸きそうだ



○○○

「た、ただいま〜」


「お、おかえりなさい

市川さん 夕食は用意しておきましたよ」


彼女は俺が手伝う分、家の清掃とかもしてくれるとのことだ

なんとも申し訳ないことをしてしまったような罪悪感は否めない


「なんか変わったことはあるか?」


「いや...何も変わったことはないですね」


『なんだか新婚みたいだな〜』とか思っている俺を殴りたい

俺には桜がいる...俺には桜が...


「ちなみに上野ってどこに泊まってるんだ?」


ちょ、待てよ

泊まるところは普通に考えてうち?

ってことは...





〜妄想の中にて〜


「私、市川さんの家に泊まりたいなぁ〜」


「今日は熱い夜になるぜベイベー」






って何考えてんだ俺!

そ、そもそもベッドは一つしか...二人で1つの...って馬鹿野郎!


「ち、近くの大きいホテルで寝るから大丈夫

空いてる部屋は入っても受付の人には見えてないから問題ないし」


「そ、そうだよなぁ〜」


何考えてんだ俺!!

こんな純粋な顔を目の前にして何想像してたんだ...


「ちなみに、今日の夜ご飯は昨日の夜ご飯に美味しそうに食べていたパスタにしました

今日の昼も食べていましたよね、パスタ」


いや全然純粋じゃねぇ!

もはや怖えよ...

ってかなんで大学まで見に来てんだよ!


「えっと...じゃあ今日はとりあえずもう遅いし...

平日は大学忙しくて力になれなくてすまんな」


「わ、わかりました

ではまた明日」







〜その頃、早川桜は〜


夜の街中を歩く男女


「今日のデート楽しかったねぇ〜

ちなみにさ、今度家族に会ってくれない?」


「か、家族!?

早川さん、だって俺たちまだ付き合って2日しか経ってないし! それは厳しいかな...」


「あっそ じゃあもういいや バイバイ」


やばい...早くしないと間に合わない...

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