第27話 妖精のしっぽ

「エイレンの服。あんたが、ソレか」

「ソレ一行が来たぞ!」

 石畳の道で、四人を取り囲むように冒険者たちが集まってきた。

 数多くの魔物を退治してきたソレ=ガシたちは、ライティスでかなり有名になっていた。

「この人です。間違いない。ソレ=ガシです」

 どうやら、冒険者のカーンノスが噂を広めたらしい。

 大勢の人々に取り囲まれたなか窓口まで行き、魔物退治の懸賞金を入手する。

「船の維持費に回しましょう」

 ソレ=ガシが即決した。

「お前たち、かなりやるみたいだな」

「どんな魔法を使ったんだ?」

「手合わせ願いたいぜ」

 質問に答えないソレ=ガシ。逆に、集まった人たちに質問を投げかける。

「ウーハラタ山に入る方法を知りませんか?」

「ウーハラタ山だと?」

「あんなところに、何かあるのか?」

「誰か、知ってるやつはいるか?」

 誰も知らなかった。どういうわけか、妖精の仕業だという情報すらない。

「困りましたね」

「そうね」

 あまり困っていなさそうなソレ=ガシに対して、ミナはかなり困っているような表情だ。

「大統領なら知ってるかもしれないぜ」

「ほんと? いってくるね」

 手をふるアイカ。

 たよりない情報を得て、四人は大統領に会うことにする。とはいえ、一介の冒険者が会えるかどうかは分からない。

 石造りの大統領府の前で、警備員に止められるソレ=ガシ一行。

「ロッキ大統領に会いたいだと?」

「魔物退治で有名な、ソレさんたちです」

 見物人が声をかけた。そこからはとんとん拍子で話が進み、建物の中へと進むことになる。

 有名になったおかげで、会うことができるようだ。

 そこは、まるで美術館のようだった。ひとつ違うのは、立派な椅子に大統領が座っているということ。

 机の上の書類から目を離した大統領と、ソレ=ガシの目が合った。

「大統領は、知っていますか?」

「何をかね」

「ウーハラタ山に入る方法です」

 じっと考え込むロッキ。椅子を人差し指でトントンと叩いていた。

「どうせ、何か条件があるんだろ」

「ケルオ!」

 アイカに叱られても、その男は眉を下げただけ。特に何も言い返さなかった。

「お願いします。教えてください」

 ミナが言って、ライティスの大統領が口を開く。

「まず、ナノマシンは知っているかね?」

「はい」

「魔力のことだろ」

 ケルオがさらりと言った言葉に、ロッキは驚いたようだ。

「ああ。そうだ。ここから先は国家機密なのだが――」

 ナノマシンの情報は、国の存続にかかわる機密事項。重要なところをぼかし、妖精のしっぽが必要だと告げる大統領。

「妖精のしっぽ、ですか」

「貸してもいいが、ひとつ条件がある」

「あるのかよ」

「条件とは?」

「君たちなら他愛たわいもないことだ。魔物退治だよ」


「レヴィアタンを退治、ねえ」

 海にすむ巨大な魔物を退治することになったソレ=ガシたち。

 久しぶりにウレペウシ号へ戻る。いつ見ても大きな船だ。全幅8クマセ。全長は53クマセにもなる。

「元気だったか?」

「しばらくぶりな気がするな」

 なまけている船員たちに、船長が気合いを入れる。

「野郎ども、行くよ!」

「はい!」

「了解!」

 ペラシンとヨフトが、とくに大きな声で答えた。

いかりを上げろ!」

 出航する船。

 指定の座標へと向かう。街から南西の方角だ。ライティスに来るとき、ウレペウシ号は北西からやってきたため、その魔物と出会わなかったようだ。

 海が荒れ始め、黒い雲が立ち込めてくる。雷はまだ鳴っていない。

 さっそく、レヴィアタンが現れた。

「いきなりかよ」

 巨大な蛇。もしくは龍のように見える。

「陣を使います」

 ソレ=ガシが宣言した。それもつかの間、ほかにも複数の魔物がやってきた。すっかり取り囲まれている。

「頼んだのは、これが原因か」

「ほかにも沢山いるのね」

 空を飛ぶものまでいる。まさに、魔物の大軍勢だ。

「陣を広げ過ぎると、ほかが倒しきれなくなってしまいますね」

有象無象うぞうむぞうは任せろ」

 自信に満ちた言葉を放つ、ケルオ。

「ケルオ。頼りにします」

 ソレ=ガシが宙に浮いた。ウレペウシ号の船首がギリギリ陣の範囲外になるように調節しながら、戦う気のようだ。

「任せた」

 アイカに言われて、親指を立てるケルオ。すぐに真剣な表情になり、長距離用のハンド魔道砲まどうほう、スナイパーライフルを構えた。

 空を飛ぶ魔物をケルオが次々に落としていく。

「何もできないなんて」

「そんな日もあるよ」

 ミナを、アイカがなぐさめていた。

「あっ。まあいいでしょう」

 それは、あっという間の出来事だった。レヴィアタンを、ソレ=ガシの光る刀が両断した。あるじが動かなくなったことで、周りの雑魚が一斉に去っていく。

 といっても、大部分をケルオが倒していたため、雑魚の残りはごくわずかだ。

「やったあ」

「おい。いま、陣の中だったよな」

「そういえば」

 ミナの目が大きく見開かれたと思えば、つづいて半開きの目がソレ=ガシに向けられた。

 船に降り立つソレ=ガシは、質問攻めにあう。

「光るエネルギー攻撃は、陣の中でも有効なんですよ」

「なんで、今まで。おい。ソレ!」

 ケルオの言葉から逃げるように、船の上空へと飛び上がるソレ=ガシ。

「こまった人だね」

「本当に、ね」

 アイカとミナが笑った。

 ばつが悪そうな顔をしたソレ=ガシは、しばらくしてから甲板に着陸した。

「敵をだますには、まず味方から、ですよ」

「あのなあ」

 あれこれと御託ごたくをならべるソレ=ガシに、ケルオが執拗しつように食らいつく。ミナは微笑んでいた。

 船は進む。

 ライティスに戻ってきたウレペウシ号と、乗組員たち。

 ケルオから説教されて、ソレ=ガシも形無しだ。

 一行は、ふたたび大統領府へとやってきた。中に入り、おなじみの机がある部屋へと歩みを進める。

「では、これを」

 四人が、ロッキ大統領から約束のものを借りる。

「あとで、お返しします」

 妖精のしっぽとは、緑色の宝石だった。


「飛ぶとはやいね」

 陣を広げつつ三人を乗せて飛んだソレ=ガシのおかげで、魔物と戦うことなく目的地に到着できた。

 ふたたび、ウーハラタ山のふもとへとやってきたソレ=ガシたち。

 標高が高くないので、背の高い木々が茂っている。

「さて、持っているだけで入れるのでしょうか」

「肝心なことを聞き忘れてるじゃない」

 ミナががっくりと肩を落とした。

魔道具まどうぐなら、魔力をこめるんだと思うよ」

「さすが、やり手の技師」

 ケルオが褒めて、アイカが照れた。

 ソレ=ガシにはできないので、ミナが妖精のしっぽに魔力をこめることになった。

「それじゃ」

 魔力がこめられ、すぐに変化が起きた。

 ほのかに光を帯びる妖精のしっぽ。

 魔物がやってきた。

 そして、襲われなかった。まるで、ついてこいと言っているようだ。

 ウーハラタ山の高さは、約133クマセ。

 登っていくと、じょじょに背の高い植物がなくなっていった。山の低い場所では、岩よりも土のほうが多い。

 険しい山道がつづき、すぐに魔物を見失ってしまう。ところが、別の魔物が現れた。

「道案内してくれてるようだな」

「すごいね」

「ここの魔物は襲ってこないのでしょうか」

「妖精のしっぽのおかげかもね」

 さらに登ると、土よりも岩のほうが多くなる。背の低い植物がところどころにあるだけとなった。

 転びそうになったアイカに、ケルオが手を差し伸べる。

「危ないぞ」

「ありがと」

 魔物の道案内のおかげで、迷うことなく山頂付近までやってきたソレ=ガシたち四人。

 山の頂で、眠っている小さな人のようなものを見つけた。

 手のひらくらいの大きさで、サイズ以外はほぼ人に見える。

 建物の中や切り株の上にではなく、岩の上にいた。羽が生えている。妖精だ。

 起きた。

「レディの寝顔を見るなんて、非常識じゃない?」

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