1-5


「うっ…うるさい!!」



腹に重い一撃をくらいふらつくと彼女を持ち上げていた手が緩んでしまった


その隙をついて逃げ出した少女をただ見つめることしか出来ずに鋭い犬歯で唇を噛んだ。



あの子は間違いなく義獣人だ



じゃなきゃ13歳であんなに細い体をしてるのに大人である私がふらつくほどの肘打ちはできない


私はコートの内ポケットに入れたスマートフォンを手に取り片手でそれを操作した



「もしもし…みつけたわよ


うん


了解」



さてと、行きますかね


唇から垂れた血を乱暴に拭き取りニヤリと笑みを浮かべた


あのトカゲチャン…絶対に保護してやる












どうしてだろう


あの女の人が私に言った言葉がまだ私の心の中にある



「もう1人じゃないんだよ君も…」



イライラする


なんであんなことを言ってくるんだよ!


こっちはいつ狙われるかわからない状況を生きているのに


それなのに人間達は呑気だ


私はただ、ここなら髪色も誤魔化せるからバレないだろうと思ってたのに


表通りの人間達を見ると余計にイライラしてきた。



いや、そんなことをしてる場合じゃないんだ



いつまたあの女の人が追いかけてくるかわからない


どこか倉庫にでも隠れないと…



「ねぇ君!」



見つかった…まさかこんなに早いとは思わなかった


恐る恐る振り向いてみれば私は目を丸くした



さっきの女の人じゃなかった



とても優しそうな男の人だ


それまではわからなかったけどこういう男性を世の中ではオカマというらしい


艶のある短い黒髪を風になびかせていてとても綺麗に見えて私の思考は3秒ほどフリーズした



「あの…えっと……」



なにか話さないといけないのに口が上手く回らない


どうしようと悩んでいるとその人は優しく笑って私の頭を撫でてくれた。



「髪の毛なんて染めて陽キャなのかなとか思ってたのにコミュ障って…


見た目と中身があってないわよ。


まあそれも個性なんでしょうけど…。」



頭を撫でていた手で今度は私の手を握ってどこかへ行こうとしてた。



「少し困ってるようだし私の家に来ない?


美味しいお茶とお菓子でパーティーしまょう!」



その人を見てるとなんだか心が暖かく見えてきた。


この人なら信用してもいいのかな?



お菓子……何年ぶりだろうか?



施設で皆で分け合って食べたあの小さなチョコレートを思い出すな


その時の私は気の緩みが酷かった



呆れるほどに、その後になって後悔するほどに

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