帰還

 その後は、組織的ではない亜人との遭遇戦はあっても、魔人との戦いはなかった。


 見逃してくれたのだろうか。


 時折、ナギとアデラが空を飛び、偵察に出る。


 大抵は敵とは遭遇しないが、2人は大型動物を狩ってきてくれて、それが解放された人たちの貴重な食料となる。


 馬車に大きな鍋があり、それを利用して猪鍋などにしてみんなに振る舞った。


 脱出も後半まで来ると、特に子どもたちがメンバーになついてきた。


 どうやら神様だと思っているらしい。


 カースは少しくすぐったい気がした。自分はそんな大した存在ではないと。


 アデラは小さい子どもたちを見ながら、人とはなんだろうと、改めて考えていた。


 スーラは、この脱出が成功したら解放された人たちのための学校の先生になりたいと思っていた。それとなくナギに話すが、スーラにはそれが似合っていると言われた。


 メイは、カイとゾットのことを考えていた。2人が死んで、自分が生き残れたこと、不思議だった。生き残ろうなんて考えてもいなかったし、多分、2人よりも自分のほうが戦力としては下だろうと思っていた。運命というものだろうか。


 ナギは、先行して、町に戻ってガンツなどと軽く打ち合わせもしていた。1,000人近い人を収容するにはどうしたらいいか、教育・雇用・食料・家、問題は山積していた。


 

 そして、15日目、ようやく町へたどり着いた。


 町の人々は大喜びだった。人類が初めて魔人の砦を落とし、人々を解放した日だった。最終戦争から数えて250年が経っている。


 5,000人の町民は総出でナギたちを迎えた。


 どこから入手したのか、爆竹の爆ぜる音もする。


 遠征メンバーには惜しみない拍手が、解放された人々には暖かい食事が提供された。


 ナギは、すぐにガンツの所へ行き、なにやら打ち合わせをする。



 今回、脱出し、町までたどり着いた人は700人。


 村の人口の1割以上の人が増えることになり、その受け入れのために町の執行部は忙しくなる。


 ナギは事務的なことは全てガンツに任せて、またメンバーの所へ戻る。


 町に着いてからも遠征メンバーは、まだ、解散していなかった。


 それぞれの家族が心配そうに見に来ている。


 群衆に紛れてラーナの顔も見える、カースが無事に帰ってきたことが分かって、もう涙でぐちゃぐちゃな顔になっている。


 ナギは、全員の顔を見て「ご苦労だった、カイとゾックのことは俺の責任だ、すまなかった」と告げて、解散とした。


 メンバーは一気に子どもの顔に戻ると、それぞれの家族の下に走って行った。


 メンバーの家族は自分の子どもたちが立派なことをしたと、手放しで喜びたいところだったが、犠牲者が出てしまった手前、あまり喜びを表すことははばかられた。


 それでも、メンバーの家族はメンバーのことを抱きしめてあげた。カースは、家族よりもラーナの所に急いだ。


 

 「ただいま、ラーナ」カースは148センチしかないラーナの顔に自分の顔を合わせて話しかける。


 ラーナは、ただ泣いて頷くことしかできなかった。手には花束が握られていたが、渡すこともできなかった。


 「ラーナ、この花束、もらっていいのかな?」


 こくりと、頷く。


 「ラーナ、ありがとう」


 ラーナはカースに抱き着いてきた。顔は涙と鼻水でぐちゃぐちゃだ。


 カースはされるがままにしていた。


 俺は、ラーナのために強くなると決めたんだ。改めてそう思った。ただ、この先、もし魔人と全面戦争になれば、ラーナを守ることはできるのだろうか、魔人が本気でこの町を攻めて来たら、全滅以外は考えられない。


 今回の砦攻略の結果が必ずしもいいものになるとは考えられない。


 もしかすると、虎の尾を踏んだのではないか、メンバーだけでなく、町の執行部もそれは考えていた。

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