そこから、さらに2日馬車が進むと砦が遥か遠くに見えてきた。


 魔人の警戒網に引っかかるといけないと言う理由で、馬車から降りて徒歩となる。


 3時間ほど歩く。全員がかなり重い荷物を持っているが、誰も音を上げない。


 砦とその周辺がはっきりと見える位置に来た。


 砦は3階建てで、カースたちから見ればかなり大きな構造物だ。町の集会所の10倍はあろうかという面積である。


 その砦の周辺には粗末な木で作られた家が並ぶ。食用の人と奴隷が住んでいると思われる。


 魔人達は、襲撃されるなど考えたこともないのか、警戒せずに砦の内外を歩いている。


 監視していると、怯えて暮らす人を無雑作に襲っては食べている。


 都では人の奴隷が、食用の人間を殺して加工しているが、砦ではそのような分業はなされておらず、奴隷兼食用であった。


 それまで、魔人や亜人のために力仕事をしたり、性的な奉仕をしたりしている人を何の脈絡もなく食い殺す。


 見ていると、まだ幼児と思われるような子どもまで食べられていた。


 その子の母親は子どもが食べられても、なにも感じないのか、それまでと同じように魔人たちの性欲処理を続ける。


 ナギたちはなにも喋らずその光景を観察する。ナギは世界を旅してきたが、今回選ばれたメンバーたちはまだ若く、町の外に出るのも初めてだった。


 奴隷として、食用として生かされている人を見るのはあまりにも辛かった。


 早くやりましょう、とナギを急かすような目で見る。


 ナギの指示で一旦距離を取る。



 スーラは、今見た光景のあまりの衝撃に涙が止まらない。メイが肩を抱いて、大丈夫と声をかける。


 「作戦は2時間後、黄昏時を狙って行う、各自この場から離れない事、もし、魔人や亜人と遭遇したら各個撃破する、以上だ」ナギが冷静に命じる。ナギの冷静さは心強かった。


 選抜メンバーにとっては、この2時間は長かった、早く助けてあげたい、人があんな風に扱われていることが許せなかった。


 ただ、もう作戦は始まっている、1人の勝手な行動で部隊が全滅しかねない。体を動かすことも出来ず、ただ、身を小さくして待機していた。


 アデラはこの状況でも、選抜メンバーと同じ行動をしてくれている。シロも何を考えているのか、じっとしている。


 選抜メンバーにとっては気の遠くなるような2時間がようやく過ぎた。


 先頭にカース、カイ、メイの3人の剣士が配置され、次にゾック、その後ろにスーラ、最後にナギとアデラという布陣だった。


 ゆっくりと砦に近づいていく。

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