レール

吉川 「親は堅実に生きろなんて言うけどさ、正直親の姿を見てるとあんな風な人生がいいとは思えないんだよね」


藤村 「わかる。結局自分の人生を肯定したいだけなんだよ。他の生き方のほうが輝いてたなんて知りたくないだけ」


吉川 「ホントそうだよな」


藤村 「俺はさ、親の敷いたレールの上を歩くだけなんてまっぴらだよ」


吉川 「確かにそうだな。未来は自分の手で掴まなきゃ。俺たちは可能性に溢れてるんだ」


藤村 「それをこっちの言い分なんて無視して、大富豪になれだなんて!」


吉川 「ん? なんて? 何になれって?」


藤村 「大富豪。まっぴらだよ。未来は自分で決めたいもん」


吉川 「大富豪になれって親が言ってきたの? そのレール無茶じゃない?」


藤村 「本当だよ。黙ってレールの上を進むだけの人生なんて俺じゃなくてもいいよな!」


吉川 「そういう問題じゃなくて。そもそも大富豪ってなに? 具体性のある肩書じゃないじゃない。なんなの?」


藤村 「とにかくすごい大富豪らしい」


吉川 「漠然。とにかくすごい大富豪になれって言ってるの?」


藤村 「そんなレールの上を歩くだけなんて!」


吉川 「なれるの? レールの上を行けばとにかくすごい大富豪に?」


藤村 「なれはするらしい。でもそんなのつまらないぜ」


吉川 「なれるのか。そのレールを敷いた親すごいな。敷けるものなの、大富豪直通のレールって」


藤村 「とにかくレールの上を行けば寝ながらでもいけるらしい」


吉川 「ならいいんじゃないの? そのレール羨ましい。ちょっと対等な感じで話してたけどまったく違ったわ。お前には同意して欲しくない」


藤村 「そんなことないだろ! 気持ちは一緒だよ!」


吉川 「いや? 全然違う。気持ちは真反対だよ? 同意どころかちょっと憎しみすら生まれつつあるよ」


藤村 「俺たちにはもっと可能性があるだろ!?」


吉川 「一旦大富豪になってからの方が、その後のあらゆる選択肢の可能性増えるだろ。普通に考えて」


藤村 「そんなこと言ってもただレールの上を進むだけなんて! 俺は自分の足で未来を切り開きたいんだよ!」


吉川 「その切り開いた先は少なくとも大富豪には繋がってないんでしょ?」


藤村 「大富豪以外のなにかになれるはずだ!」


吉川 「なんでそっち行くの? 素直に行っておけよ大富豪に。俺のレールとお前のレールじゃまったく質が違うから」


藤村 「そんなことない! 一緒だよ! 同じプレジデンタルスイートの寝台でレールを進むだけだろ!」


吉川 「もう列車が違うわ。なにそのプレジデンタルスイートって。豪華寝台特急じゃん。予約が取れないような。こっちは鈍行だから。レールもなんだったらガッタガタだから」


藤村 「そうなの? でもラウンジに出れば見える景色は一緒だろ!」


吉川 「ラウンジとかないんだよ。なにその高級さ。こっちはなんだったら人力だからね」


藤村 「原始人が乗るようなやつ?」


吉川 「原始人じゃないよ! さすがに列車は文明結構進んでるだろ。自分と異なる階層に対する解像度が低いな!」


藤村 「でも俺、ツィッターでめちゃくちゃバズる人になりたいし!」


吉川 「そこ目指すしてるの? 大富豪がツィッター買ったけどね。大富豪になってからの方が多分バズると思うよ」


藤村 「とにかく! 親の敷いたレールが嫌なんだよ!」


吉川 「そのレールに乗りたくて血のにじむような努力してる人がどれほどいると思ってるんだよ」


藤村 「お前はこのレールがどんなだか知らないから!」


吉川 「どんなやつなんだよ!?」


藤村 「このままレールを真っ直ぐ進むと、五人を轢き殺してしまう。ただし分岐で進路を切り替えれば一人を轢き殺すことになるんだよ!」


吉川 「トロッコ問題か。さすが大富豪直通のレールだけあって手を汚さないとダメなんだな」



暗転

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