闇の力

吉川 「クッ……。ついに暴れだしたぜ。この俺の内なる闇の力が」


藤村 「奇遇ですね。私の方も暴れだしました」


吉川 「なんで? なんでお前も持ってるの? 内なる闇の力を」


藤村 「たまたま、持ってるタイプだったんです」


吉川 「そんなわけないだろ! これは俺の出自にかかわる問題。魔王を俺の母に封印して俺が生まれたんだ」


藤村 「私も魔族が封印された卵を食べたせいで」


吉川 「食べたの? なんで食べるの?」


藤村 「オムライスにして」


吉川 「食べ方は聞いてないよ! そんなのでお前の内に宿っちゃったの?」


藤村 「そう。暴れてる。あ、今お腹蹴った」


吉川 「赤ちゃんじゃないんだよ。そんなほんわかした暴れ方しないだろ、闇の力は」


藤村 「もし出てきたらお友達になれるといいですね」


吉川 「世界滅ぶんだよ! 出てきたら。なんで母性目覚めちゃってるんだ」


藤村 「もうもらいました? 母闇手帳」


吉川 「あるの!? 行政が手厚くケアしてくれるシステムが」


藤村 「いえいえ、まだ手が行き届いてるとは言い難いですね。出闇率はどんどん下がってきてますし、シングルダークマザーに対する世間の偏見の目なども厳しいです」


吉川 「率で表せるほど頻繁に起こることなの、これ? 闇の力を宿してるの世界で一人だけかと思ってたんだけど」


藤村 「そんなことありませんよ! 決してあなた一人ではありません。だから周りに頼ることも大切ですし、なにより社会全体で守っていかなければならないことですから。一緒に頑張りましょう!」


吉川 「そういう励ましを受けると思ってなかった。なんかありふれてると思うと逆にガッカリするというか。壮大な背景を背負ってるからこそ頑張ってこれた部分があったから」


藤村 「いいえ、そんな卑下することはありません。あなたは特別です。たった一人」


吉川 「ですよね、なんせ魔王だから。俺の場合は」


藤村 「はい! どんな人もみんな特別なんです。一人しかない。つまらない人間なんて存在しないんです」


吉川 「あ、そういう感じなのか。特別という意味ではその辺のシングルマザーと闇の力を宿したこの俺と一緒ってこと?」


藤村 「もちろんです!」


吉川 「俺のは世界が滅ぶタイプのやつなだけど?」


藤村 「私たち一人一人が環境のことを考えなければ世界はいずれ滅んでしまいます!」


吉川 「なんか変な活動と一緒にするなよ。こっちはすごい大変なのに。誰も俺の気持ちなんてわかるわけないんだ!」


藤村 「わかりますー。闇を宿してるとどうしてもそういうネガティブな気持ちになりますよね。どうもホルモンバランスが絡んでるそうですよ」


吉川 「俺の苦痛をホルモンバランスでわかりやすく解説するなよ! 誰にも理解されない孤独に生きた日々を!」


藤村 「そんな風に孤独を感じた時には闇のレスキュー相談ダイヤルっていうのがあるんですよ。こちらは資格を持った相談員が24時間体勢でご相談にのってくれますから、孤独に感じた時、またそれほどではないけど不安を感じてるときなど気軽に相談してみるといいですよ」


吉川 「俺の抱えてきた闇をお気軽な相談でどうこうできると思ってるのか?」


藤村 「あと申請すれば市からの助成金も入りますよ。これあんまり知られてないんで」


吉川 「助成金まで。それは正直助かるけど。そういうことじゃないんだよ!」


藤村 「生まれるまでも不安だけど、生まれたあとのことも不安ですよね。きちんと育てられるのか。身体の健康のことも心配ですし」


吉川 「順調に育てる計算まで考えてないんだよ! もう抑えつけるのでいっぱいなんだから」


藤村 「でもこう考えてください。闇を産み落としたあとでもできないことなんてないはずなんです。もしそういうことがあるとしたら闇を産み落とすことを考慮してない社会の問題ですから。これは決して個人の問題なんかじゃないんです」


吉川 「うるせーな! 俺は個人で闇の力を使役するんだ! こうなったらすべてを、世界を支配してやる!」


藤村 「奇遇ですねー。私もそう思ってたところなんですよ」


吉川 「お前、いちいち追従してくるなよ!」



暗転

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