16話:ロクでもない父親の予感


 休み時間、教室でぼっちな時間を過ごしていると、周りのクラスメイトの噂話から転校生が来たとの情報を得た。

 さらにその次の休み時間…昼休みにその女の子はやって来た。


 「やっと見つけた…!あの時の!」

 「あ……君は」


 …という感じで、俺は赤髪の女の子…鮫村藍野と再会した。

 

 「あの時のお礼をきちんとしたいから、今日の放課後に私と家に来てほしいの。お願いできるかしら?」

 「そういうことなら。同行させてもらいます」


 そういうわけで放課後、鮫村さんの迎えの車に乗って彼女の家へ招待してくれた。

 車の中でお互い軽い自己紹介をし合う。

 彼女自身も腕に覚えがあるとか、自分が将来家を継ぐとか、実は将来婚約する予定の相手がいるとかなどなど…主に藍野の家事情を聞かせてもらった。

 話していくうちにお互い名前で呼び合うことになった。


 そして少々立派な、少し欠損が見られる(前の抗争のせい?)屋敷に入れてもらう。長めの玄関には黒服を着た男たちがズラっと整列して待機していた。金持ちとかの家あるあるの展開だ。

 客間に通してもらい、そこには俺が見上げるくらい大柄の中年男が待ち構えていた。

 

 「よく来てくれた。鮫村組を仕切っている者…鮫村玄達げんたつです」


 見た目強者なおじさん…玄達さんの挨拶に、こちらも名前を名乗って返事をする。

 それにしてもこの男の見た目……何だか前世にいた彷彿ほうふつとさせる。まさかアレと同じような人間ではないことを、祈りたいね。


 「彼…秀征さんはね、私を抱っこしながら燕馬の武闘派組員たちを蹴散らして突破したのよ。あんなことをしてのける人初めて見たわ!」

 「ほう………もう名前で呼び合う仲になったのか。

 そもそもあんなことになった原因は、燕馬の連中が突然ここにカチコミしに来てな。娘の藍野を先に逃したのだが、それが裏目となって奴らに狙われることになってーーー」


 藍野と玄達さんとであの日のことを中心に会話して過ごす。しかし気のせいか、途中から玄達さんの俺を見る目にどこか険しさを感じられた。嫌な予感がした。


 1時間経ったところで帰ることになって支度をする。そこに玄達さんが俺に話しかけてきた。


 「娘が言ったことが本当なら、是非うちの用心棒として雇いたいのだが、どうかな?」

 「ははは、僕はこの通り高校生なので3年間は学生として過ごしたいので」

 「そうか」

 「ところで、藍野さんにはもう結婚を約束している人がいると、ここに来る前に彼女から聞いたのですが」

 「ふむ…それを聞いてどうだのいうのかね?」

 「いやーまぁ、彼女が良いって言ってるのなら良いんですが。一生に一度の婚約はしっかり本人の意思で決めてもらった方が良いかと…って、若い奴がなんか言っちゃいましたが」

 「いや、お前の言う通りだ。ワシとしても娘が嫌がることはしたくないからな。

 …ワシからも一ついいかな」

 

 玄達さんが俺の顔を見下ろしながら顔を険しくさせて警告めいたことを述べた。


 「助けてくれたことには大変感謝をしている。

 だがそれとは別に、今後は娘に過度な干渉はしないでくれよ。

 裏の社会の人間の相手が務まるのは、同じく裏の社会の人間なのだからな…。

 あまり、娘…藍野にちょっかいをかけるなよ?」

 「………」


 最後の一言に本音があった気がした。その言葉で残念ながら確信してしまった。


 この男もロクでもない父親だということを。

 要は藍野さんとの交遊は認めないということ。俺を今後は悪い虫として認識したのだろう。

 感謝はすれど、それ以降は他人として接せよ、友人以上の関係は認めない…あの男はそう言ったのだ。


 (はぁ……またか。前世と同じ、もし俺が藍野さんと付き合えば……奴らは間違いなく俺を消しに来る)


 前世と同じ運命に遭おうとしている俺の心は黒く暗く濁って澱みそうになっていた。あの時のことを思い出して凄く嫌な気分に駆られる。


 お前らの思う通りになると思うな。こっちは今や人類を超えたちからを持つ存在になったんだ。

 

 もしお前らが俺と藍野さんが付き合ってることを理由に俺を消しに来るようなことがあれば…その時は俺はお前らを皆殺しにしてやる!

 

 玄達の鋭い眼光を背に受けて俺は屋敷を出て行った。






 夜。

 

 「あの男、吾妻秀征の動向をしばらく見張れ。

 もし奴が藍野にまとわりつく虫であるようなら…恩人であろうと構わん、消せ」

 「分かっております。お嬢の為にも、この組の将来の為にも」


 彼の予想通り、運命は彼に再度牙を向けようとしていたーーー

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