最終話

 校舎の影になって日の当たらないベンチ。


 バクヒロとニントモが『秘密基地』と称して放課後の時間を潰していた場所だ。


「集まってるな、諸君!」


 バクヒロの挨拶を聞いてニントモがプルプルと肩と赤毛のパーマを震わせる。

 マミヤとキネコは、その様子に目を合わせて怪訝そうな表情を作った。


「ぷはーっ! 最高!」


 ついに耐えかねたようにニントモが満面の笑みで飛び上がった。


「わかる?」

「わかるぞぃ。言いたくなるかんな、諸君て!」

「そうそう。実はずっと言いたかったんだ」

「だって司令官だかんな。当然挨拶は諸君ぞぃ」


 二人で盛り上がる姿を見て、キネコが長い黒髪を耳にかけ呆れたようにこぼす。


「ごめんなさい、そういうの全然わからないんですけど」

「ハーッ! これは、修業が足りんぞぃ。みんなで勉強会するかんな。さぁ、みなさんご一緒にー! 『おっぱいモミモミ揉み捨て御免! おっぱいモミモミ揉み捨て御免!』」


 ニントモはセクシャリオンの変身ポーズをしながら踊り始める。

 バクヒロも手だけは、参加して揉み捨て御免のポーズを取る。


「どうせ、女の子に触れないくせに……」


 ぽてっとしたつややかな唇でマミヤがつぶやくと、ニントモが赤毛を逆立てて噛み付いた。


「ニンは触らなくても、弟者が揉むかんな!」

「揉まないよ! 勝手なこと言うな」


 バクヒロは思わず顔が赤くなり過剰に反応して大声で言い返した。


 その姿が滑稽だったのか、マミヤとキネコは声を立てて笑った。

 笑ってもらっただけ、救われた気がする。


「じゃ、家に戻って作戦会議をしようか」

「ピルクル買ってこないとな。ピルクルはヒーローの栄養源だぞぃ」

「あるよ」

「さすが弟者! 入れたり突いたりだぞぃ」

「いたれりつくせりだと思うよ」


 バクヒロとニントモがそんなやり取りをしていると、マミヤがキネコに向かって言う。


「仲が良すぎてウザいと思わない?」

「少なくとも話がまとまる気はしませんね」

「男って集まれば集まるほど掛け算でバカになってくのよね」


 ニントモが二人を下から煽るように言った。


「しょうがないぞぃ。義兄弟じゃないけど、二人とも仲良くしてやってもいいぞぃ」

「うっざ……」

「だいたい弟者を二人じめしようっていうのがダメぞぃ。どうせ弟者の身体が目的なんだぞぃ! 寝込みを襲ってチューとかする気だぞぃ!」

「なに言ってんだ。そんなこと、するわけないだろ」


 マミヤとキネコの表情が固まり、ピシーンと氷が張ったような緊張感が漂った。


 その異変を敏感に察知したのか、ニントモがキョロキョロしはじめた。


「あれ。なんぞぃ、この空気。すごく居心地の悪い。誰ぞぃ! オナラしたのは!?」

「オナラじゃないわよ!」

「じゃぁなんぞぃ! この二人が怪しいぞぃ。どっちかがオナラしたに決まってるぞぃ」

「ニントモ、もういいじゃないか。別にオナラくらい誰だってするよ」


 バクヒロが空気を入れ替えようと必死でフォローを入れると、マミヤが立ち上がる。


「オナラじゃないって! キスの方だって!」


 キネコも立ち上がり、バクヒロに近づく。


「本当に覚えてないんですか? あの時の。バクくんが倒れた時の」

「……なにがあったのかな」


 本気で事情がつかめないバクヒロに落胆したのか、マミヤとキネコは、身体中の空気が抜けるような大きなため息を吐いてベンチに座り込んだ。


「王子様が目を覚まさない時にプリンセスがすることなんて一つでしょ」


 バクヒロの脳みそが過去の出来事を洗った。

 コケオドスに倒され自宅で目が覚めた時に、なにか重要なできごとがあったような気がしないでもない。

 なにかの拍子で目が醒めたのだけど、その記憶は靄に包まれたようで何かがあったというボンヤリとしたものでしか思い出せなかった。


「え、待って。その、どっちが、したの?」


 間の抜けたバクヒロの問いかけに、マミヤはたれた目を指でひっぱり、小さな唇から舌を出た。

 キネコは切れ長の目を細め、薄い唇の前に人差し指を立てた。


「教えない」

「教えません」


 二人の連携はバッチリだった。


 これ以上問い詰めることなんてできるわけない。

 さすがにこの二人の正義の味方を敵に回すなんて無理だから。

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彼女の敵は正義の味方 亞泉真泉(あいすみません) @aisumimasen

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