第 8回   蜻蛉のヒャダイン  

 せっかくの再評価の機会チャンスとなったはずが、何の悪戯なのか

その使い手の人選で、冷遇されてしまうとは、哀れヒャダイン どこまでも運のない

呪文なのであった。

 抱え過ぎた呪文の量を2分けにしたこと自体は非常に良い改善提案だと思う。

 

 しかし、その分割の仕方にこんな問題があるとは、誰が予想しようか。

 ここまでくると、制作サイドは果たして本当に再機会を与えようとしたのかさえ怪しくなってくるわけで・・・ 

 

 さて、そうは言ったものの、まだ全てが決まったわけではない。しかし、あくまでキャラ分けという点では、ブライの不人気は間違いない。

 確かにこれを理由にスタメン落ちからの馬車待機常連への道のりは、目に視えるではないか。


 第5章では、8人もの仲間が集結することもあり、戦闘に参加する4人以外は、基本的に馬車内で出番待ちということになるからだ。

 勿論、制作サイドとしては、これだけの導かれし者たちを用意したのだから、取り換え入れ替え存分に8人を有効に使って欲しかったのだろうと、思いたいところだが、実際はそうはいかず、スタメンというのはある程度固定されるものなのだ。

 それ自体はもう、ドラクエに限ったことではなく、人間の節理ともいうべきか

 

 そんなスタメン選びには、やはりキャラへの想い入れや愛着の影響は軽視できないものがあって当然だろう。

 その意味では、間違いなく馬車組み2軍落ちになるのが我らがサントハイムの老魔術師なのだ。

 ただし、希望を捨ててはならない。もしそこに実力があったならば、それなりに戦闘への参加は見込めるはずなのだから

 人は容姿や年齢、立ち位置だけではないことを、忘れてはならない。そう、実力さえあれば、そんなものは消し飛ぶのだ。

  

 そう、実力さえあれば・・・


 ここで、ブライ爺の実力について考えてみよう。確かに、攻撃呪文自体は、派手処を全てマーニャ姉さんに持っていかれた感は否めない。

 しかし、その他はどうか? 味方単体の攻撃力を倍化させる魅惑の強化呪文であるバイキルト、敵を混乱同時撃ちさせるメダパニ、呪文を反射する光の壁マホカンタ等、こう改めて綴ってみれば何気にその多彩ぶりが視えてくるのだ。 

 一方のマーニャはといえば、そのド派手な攻撃呪文の充実ぶりとは裏腹に、補助呪文といえば、守備力減退のルカニくらいのもの。

 しかも、それ自体はブライも習得し、尚且つ、効果が範囲となる上位のルカナンは彼専用呪文となっているのだ。

 

 そう、これは単なる2分化ではなく、攻撃主体と、補助のエキスパートという別の役割を担わせるための采配だったのだ。

 そう考えると、後者を任せられたブライに攻撃呪文が1系統しか与えられなかったのも必然だったといえそうだ。

 そして、そこで与えられたのがヒャド系だったというのも、理に適っているではないか。

 これがもし、メラ系だったらばどうか? 単体攻撃しかできない魔法使いになっていたらそれこそ使い処はない。

 ギラ系だけでもやはりグループ攻撃のみとなり、攻撃に幅がない。

 そう、段階毎にその効果範囲が変化するヒャド系だから、1系統のみでも彼に多彩な戦いぶりを与える結果に繋がっているのだ。

 

 このように視点を変えてみるだけで、こうも肯定的に捉えることもできるのだから、世の中捨てたモノではない。・・・と思いたい。切に

 

 しかし、これはあくまで机上の空論、構想的にはそうなのだが、実際の本編での活躍はどうだったとなると、これまた話は、振出しに戻らざるをえないのだ。

 

 では、潜在的に活躍を期待されるような資質ポテンシャルを持ちながら、結局ウダツの上がらない馬車組常連が生まれてしまったのは、一体どのような理由があったのだろうか。(もちろん、ビジュアル要素以外の話についてである)


 まず、先に第5章での話に限ればだが、これにはAI戦闘という新たな試みが関与している。

 AIつまり人工知能はいまでこそ珍しくないよく耳にする言葉だが、この当時(30年前)の世の中で、このAIを採用するのはかなり攻めた設定だった。

 まあ、要はプレイヤーが逐一コマンド入力をせずとも、自動オートでAIが判断して適切な行動をとってくれるというものなのだが、このAIがこれまた曲者だったのだ。

 今ほど、適切な行動をとってくれると説明したが、実は最初からそう上手くいくわけではないのだ。

 まあ、それが本作のAIの特徴でもあるのだが、初見ではとりあえず色々試してみたりするわけだ。まったく効果がない呪文もバシバシ使ったりする。

 クリフトが、効きもしないザラキを狂ったようにを連発して肝心な場面でMPが枯渇するという憂き目に合ったユーザーが多いのも、こんな仕様のためなのだ。

 とにかく何度か同じモンスターと戦い学習するまでは割と迷走を繰り返しやすい。

その分、学習し終えた後は適格に弱点を突いて戦ってくれたりするのだが


 もちろん、それ(迷走)を未然に防止するため?に作戦というものがあるのだが・・・ 

 作戦が『命大事に』ならば、さすがに瀕死の仲間を先置いてザラキ・・とはならないわけで まあ、一応命令によって、ある程度行動志向は調節できるとはいえ、そもそも学習型AIであること、それからなんといってもこのⅣでは、AI初登場にしてAIそれしか選択肢がないというのが 物凄く問題なのである。

 つまり、第5章では、主人公である勇者以外の7人に関しては一切、コマンド指示ができないということなのだ。

 出来るのは、上述した作戦を命令することによって、ある程度の方向性をつけてやることだけなのだ。  

 しかも、この作戦というのが意外に雑な造りになっていて、『ガンガンいこうぜ』という如何にも強行突破だぜ!的な作戦に至っては、その時点で習得している最強の攻撃呪文を惜しみなく放ち続けるというのもの。

 割と小心者ならば『命大事に』にしておかないと気が休まらないかもしれない。

他の作戦ではかなりHPが削られるまで放置されがちになるからだ。

 また、『いろいろやろうぜ』を選んだ日には、道具を勝手に使用し出す始末。

 道具といっても薬草などならまだ良い。本作では、貴重な消耗品もお構いなしに使ってしまうから、危なくて仕方ないのだ。

 ま、とはいえ今作に本当に貴重な消費アイテムは基本的には無いのだが・・・

 それでも敢えて、あとでライアンに使おうと取っておいた命の木の実を、トルネコが勝手に戦闘中に使ってしまうというようなハプニングに遭遇する可能性は割とあったりする。

 まあ、いずれにせよ消耗品まで勝手に使われるのは正直どうなのかと子供ながらに思ってはいたし、何より、自分でコマンド指示ができないというストレスは、当時のユーザーたちからはすこぶる不評だったことは想像に難しくないだろう。

 

 結果、早くも次作Ⅴでは、このAI作戦システムは残しつつも、『命令させろ』という名の従来のマニュアル式バトルが楽しめる作戦が追加された。

 無論、筆者の知る限り100パーセントの友人が、このマニュアルバトル一択でプレイしていたものだ。 子供って正直だと思う。

 

 そう、色々書いたが、兎に角 子供心にAIは物凄くつまらなかったのである。

やっぱり自分で操作してこそ楽しいというものなのだ。単純に

 

 ただ、この年齢になった今は別である。実はこうした癖のあるAIを敢えて使いこなしていくプレイスタイルにこそ楽しみを感じるようになるなど、当時は想像もつかなかったわけだが


 まあ、というわけでこのAIシステム自体、否定するものではない。むしろ今となっては、とても玄人好みなマニアックで味なシステムだとさえ感じている。

 逆に、何でもかんでもマニュアル戦闘に拘るプレイヤーを視ながら、まだまだ分かってないよなぁ等と、高見からニヤニヤしてしまいそうである。

 

 さて、脱線してしまったが本題に戻る。

このように、自分の意思で選びたい呪文が選べない以上、AIシステムにおいては呪文使いの使い勝手に不利が生じたのは事実だ。

 その影響がダイレクトだったのが補助系の呪文たちである。先に述べたように、攻撃呪文ならばまだ、ガンガンいこうぜを選べばそれなりに期待したものを使ってくれる。回復もまた然り 作戦次第で、ある程度、思惑通りにはなるだろう。

 しかし、補助だけは、そうはいかないのだ。

 例えば先も真っ先に例に挙げたバイキルトなど、もし多用してくれたならば大活躍間違いなしの期待の星なわけだが、実際にこの呪文をブライに使わせるには、どうしたらよいのかが、非常に難しいのだ。どの作戦にしたら使ってくれるのか、どのタイミングなら使ってくれるのかが、分かりにくい いや、正直ふつうにプレイしていたら分からないのだ。そして、下手をすれば(しなくても)、結局バイキルトを生かすどころか、むしろその詠唱を視ることなくクリアしてしまったプレイヤーも数知れずといったところか。

 

 まあ、実際には、分かりにくいながらも、やり込んでいけばバイキルトが使われ易くなるシチュエーションを構築してやることは可能なのだが、そこまでお膳立てして唱えさせるのは、もはや有用無用という次元ではなく、拘りプレイの一種になってしまうわけで、それは本末転倒というものだ。

 

 このように、結局、使って欲しい一番の目当ての呪文をちっとも使ってくれない。だったら、戦闘出す必要ないよね? という流れで馬車に詰めこまれることで、その後、まず活躍の機会は回って来ず、結果、自慢のヒャド系を奮うことすら叶わなくなるというのが、この第5章でのブライ爺なのだ。

 

 まさにその姿は蜻蛉カゲロウ、それは恰も陽炎かげろうのように揺らめき 今にも消え入りそうな佇まいを視せつづけるのだった。

 ヒャダイン 解雇まであと僅か




 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

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