第 6回   導かれしヒャダイン  

 

 結局、次作Ⅳでも続投となったヒャダインだが、この理由についての筆者の推察はこうだ。

 それは、『まだ見切りをつけるのは早いから、工夫して再度様子見てみようか』というものである。

 

 前回、お話したように、初登場作であるⅢにて、確たる爪痕を残せたとは決して言えないヒャダインである。

 通常ならば、次回作では不要な呪文と判断されて、お払い箱になっても、何ら不思議ではなかったはずなのだ。

 それなのに、残留できたのは、開発側に、それなりの温情があったからに他ならないのではないか。

 つまり、ダメな子にもう一度チャンスを与えようという話になったのだと、そう妄想してみたのだ。

 

 ただ、そうはいってもⅢと同じように実装すれば、元の木阿弥である。それでは、

続投する意味がない。

 そう、実はⅣではこの呪文を再登用するにあたり、前作Ⅲとの差別化をしっかりと押し出しているのだ。

それが、きちんと顕れていることに気付いたからこそ、冒頭に述べたような推論に至ったのだ。

  では、どうように差別化が図られたのかについて解説していこう。

 

 ドラゴンクエストⅣ~導かれし者たち~は1990年にドラクエシリーズ4作目として発売された。

 この作品の最大の特徴はそれまでの勇者ロト伝説3部作とは異なる、新たな世界観を展開したことにある。

 このⅣの世界に勇者ロトは存在しない。つまり別の世界のお話 云わばドラクエの名を冠した別シリーズのはじまりである。

 説明するまでもないが、このⅣの後、ハードをスーパーファミコンに鞍替えしたⅤ、そしてⅥまで続く 『天空編』の初作となった作品である。

 ある意味、ひとつの原点ともいえる作品だ。

 

 それ故に、前作Ⅲまでのロト伝説3部作とは、一風違った新要素が散りばめられているのである。


 時に、あまりドラクエに造詣がないライトユーザーからは、ハードを一新したⅤから本格的にシステムが進化したのだというように誤解されがちだが、実際には、このⅣの時点で取り入れられた新システムは多い。

 ただ、ハードがロト3部作と同じファミコンであるが故、旧式として捉えられがちなのだろう。しかし、それは大きな間違いだと、声を大にして言いたい。

 

 そうは言っても、その全てを挙げていてはキリがない。本項では、今回のテーマであるヒャダイン問題に関わる要素だけをピックアップして話を進めたいのでご容赦頂きたし

 

 まず大きな特徴として物語が章仕立てで分けて構成されている点だ。

全5章仕立ての壮大なストーリーで、各章毎に主人公が存在する。旅の経緯も目的も全く異なる彼らのそれぞれの冒険を個別に描いた第1章から第4章、そして第5章では、本作の真の主人公たる勇者が登場し、そこに運命に導かれし仲間たちが集うという筋書きである。

 

  この第5章で勇者の元に集うのが、各章の主人公たち、即ちこれが、タイトル所以の『導かれし者たち』なのだが、この導かれし者たち、何と7人存在するのだ。

 そう、この導かれし者は各章毎に、1人とは限らなかったのである。

 まず、第1章『王宮の戦士たち』では、バトランド城に仕える戦士ライアン、つづく第2章『おてんば姫の冒険』では、サントハイムの王女アリーナと、そのサントハムに仕える神官クリフト、そしてアリーナの教育係の魔法使いブライ、さらに第3章『武器屋トルネコ』ではいつか自分の店を持ちたいと願う雇われ武器屋のトルネコ、そして第4章『モンバーバラの姉妹』では、父の仇討ちの旅にでる占い師ミネアと踊り子マーニャのジプシー姉妹がそれぞれ主人公として登場する。

 これで、計7人、これにオオトリの勇者を加えた8人が本作の主人公たちである。


 さて、ここでこの8という数字を聞いて、ピンと来ただろうか? そう、これは前作Ⅲに登場した職業の数と一致するのだ。

 

 それがどうしたと思われた方もいるかもしれないが、こうした気付きというのは、案外面白いものである。

 最初に述べたように、筆者のドラクエ体験は順序的にはこのⅣが先だったわけだが、Ⅲをプレイして、すぐにこのことに気付いたものだ。

 

 そう、この勇者を含む導かれし者たち8人はⅢでの8種類の職業に対応しているのだ。

 ただ、ここで注目したいのは、そのままバカ正直に対応しているわけではないということ 

 Ⅲに登場する職業は 戦士・僧侶・魔法使い・武闘家・商人・遊び人・賢者そして勇者の計8職。

 それに今作のキャラクターを個別に対応させてみると、そのことがよく視えてくるのだ。


 戦士ライアンは文字どおり戦士なので、これはそのままでいい。

 次に武闘家だが、これはプレイしたことが無い人には分かりづらいかもしれないが、サントハイムの王女であるアリーナがこれに該当する。おてんば姫という設定は伊達ではないということらしい。力と素早さが伸びる点も然り、レベルがあがれば会心の一撃を連発しやすくなるという特徴まで、そのまま対応している。

 それから、勇者は勇者である。それは変わらない。ただ今作のほうがMPの伸びが良いなど、前作で問題とされていた欠点を幾分かコテ入れされた感はあるが

 

 さて、問題は残りのメンバーである。

 

まず、トルネコだが、武器屋という肩書からして、前作の商人扱いなのだろうというのは、全くの素人考察である。

 プレイしていけば分かることだが、彼は単なる商人ではなく、遊び人の要素を兼ねているのだ。

 戦闘中にランダム行動をとったり、役に立たないこともしばしば。また、それを意識してか知らずか、劇中での彼の台詞回しなどからは、数少ないながらも、このトルネコというキャラクターが本作のムードーメーカー的存在であることが視えてくるようになっている。

 例えば、ガーデンブルク城にて、窃盗容疑を掛けられた導かれし者たち一向の、嫌疑晴れるまでの人質候補に真っ先に選ばれやすいのも彼だった。(当時の筆者周囲での調査による)

 ギャグキャラだから、牢屋越しでも、悲壮感を覚えなくて済むということだろうか・・・南無

 

 実際にその知名度、人気は高く ドラクエシリーズ初のスピンオフ作品である『トルネコの大冒険~不思議なダンジョン~』の主人公に抜擢された実力?を持つ。そんなキャラクターなのだ。


 さて、トルネコが、商人と遊び人の夢の複合人材ハイブリットだったのに対して、逆に二人で一人前みたいな半人前扱いになっているのが、残りの4人なのだ。

 

 まず占い師ミネアと神官クリフトだが、この両者 どちらもお得意は回復呪文といった、いわばⅢでいうところの僧侶にあたる位置取りポジショニングなのだが、Ⅲでは僧侶が1人で担当した呪文を、今作ではこの2キャラに分配しているのである。

 ホイミ系等や蘇生呪文の初級ザオラル等、両者で習得が重複する呪文も存るが、反面、どちらかしか行使できない呪文も宛がわれた。

 例えば、前作でも終盤ボス戦で大活躍した範囲回復呪文ベホマラーや、蘇生呪文の上位ザオリクは、クリフトしか扱えない。しかし、ミネアはクリフトには使えない攻撃呪文バギ系や、強敵戦で役立つ息系ブレス軽減のフバーハ等を習得する。

 

 僧侶がこうであれば、当然魔法使いも2分割ということで、魔法使いの習得呪文を担ったのが、ミネアの姉で、踊り子のマーニャ、そして魔法使いブライであった。

 前回もその問題を指摘したように、前作での魔法使いの習得呪文はその量が多すぎて詰め込み感が際立っていた。

 僧侶の場合もいえることだが、この詰め込み問題の緩和策として、こうした2手に分けるという案が採用されたのは想像に難しくはない。


 ※尚、以上の理由により前作で魔法使い及び僧侶の全ての呪文を習得できた万能職である賢者に、該当するキャラが不在なのだということは付記しておこう。

 

 閑話休題、この気付きこそ、今回の推察に行き着いたきっかけだったのだ。

習得する術者を分けて細分化することで、それぞれの呪文に活躍の場を設け易くするということなれば、当然それはヒャダインにもそうした機会チャンスが回ってくる筈なのだ。


 そう、これはヒャダインに与えられた再試行トライアル

 

 では、前作において、許容量キャパシティーを超えていた魔法使いの攻撃呪文たちが、どのように分配されたかであるが、それはマーニャが、イオ・ギラ・メラ系の全て 序にドラゴラムまで習得する それに対して魔法使いのブライに割り振られたのが、、、なんとヒャド系のみだったのである。

 

 くして、ヒャド系・・・もとい、ヒャダイン 汚名返上?の手綱は、この

サントハイムの老齢魔法使いの手に委ねられたのであった・・・。


 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

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