第 4回   リストラ ヒャダイン  

 当たり前だが、前回の続きである。ここから読み始めてもきっと意味不明に陥ること請け合いなので、興味を持たれた方は是非、第1回から順にお読み頂くことをお薦めする。

               閑話休題

 さて、前回ラストにお伝えしたように、ヒャダインの不遇の謎を紐解くために、この呪文の登場作品での存在意義、もとい、扱われ方について視ていこう。


 おさらいだが、ヒャダインが初登場したのはファミコンで発売された3作目、ドラゴンクエストⅢ~そして伝説へ~でのことだった。

 そして、続編にして天空シリーズの第1作となったドラゴンクエストⅣでも、続けて登場している。 

 しかし、この後、スーパーファミコンで2年越しに発売されたドラゴンクエストⅤ~天空の花嫁~にて、その姿を消してしまったのは、前回詳述したとおり


 つまり、たった2作品しか登板していないのである。


 まずは、初登場となったⅢでのヒャダインだが、これについては、第1回でも言及したヒャダインバグの存在は大きいと考える。

 本来習得する順序が入れ替わっていたのだから、それがゲームバランスに影響を及ぼすのは必然だろう。

 当時は、より強力なほう(マヒャド)が低レベルで習得できてラッキーだという認識が強く、結局、事の重大性に気付いていなかったのだが、この表面上のラッキーが、一つの呪文を、解雇リストラへと追いやる序曲プレリュードとなっていたのではないか。今はそう思える。

 

 まず、単純に威力面で明らかに上回るマヒャドを習得後に、ヒャダインを覚えるメリットはあまりないからだ。

 ただし、全くメリットがないわけでもなかったのも事実で、第1回でもお伝えしたように、このヒャド系のコンセプトであり特徴ウリは、段階毎に変化するその効果範囲にある。

 そして、このヒャダインは全体攻撃という優れた特徴を要しているからだ。

 

 実は、この全体攻撃というのが、本作に於いて、とても貴重だということに、案外気付いていないユーザーは多い。

 本作が発売された88年当時のRPGにおいて、物理攻撃以外の、特殊攻撃といえば呪文(もしくは魔法)くらいしか存在しないというのが一般的だった。現在のように、戦士系のキャラクターが〇〇斬!とか格闘系キャラが△◇拳!みたいな所謂、必殺技的なスキルはほぼ見られなかった。そんな時代であり、本作もまた御多分に漏れずそんな作品の一つだった。

 何が言いたいかというと、範囲もしくは全体を攻撃する手段がこの呪文しかなかったということである。考えれば当然、物理攻撃は基本敵1体を殴るのみ。コマンド制の本作のようなRPGにおいて、呪文が全く使えない=殴るしか能がない=脳筋という発想の流れは、これまた当然で至極的を得ているわけだ。(もちろん当時は脳筋などという言葉は存在しなかっただろうが?)

 ※次いでに当時を知らない若世代の方のために補足しておくと、武器による範囲攻撃という概念すら、これまた一般的ではなかったのである。Ⅲにも鞭は存在するし、Ⅳにはブーメランも登場する。しかし、これは単に名前だけの見せかけでただの単体攻撃武器に過ぎない。武器による範囲攻撃概念が登場したのはⅤからである。


 そう、範囲攻撃は呪文を使えるキャラや職業の特権だったのだ。さらに、この範囲攻撃のうち、敵グループを攻撃する呪文は数あれど、全体攻撃となると実はその数が限られているのが本作なのだ。

 具体的には全体攻撃の系統はイオ系のみの専売特許であり、その他となると、勇者専用にして本作最強のギガディン、それ以外では自ら竜に変化してブレスを吐き続ける火竜変化呪文ドラゴラムが在り、そして残りがこのヒャダインと、計6種類しかないのである。そう、全体を一気に攻撃できる手段がたった6種しか存在しないのだ。

 ヒャダンインとは、そんな貴重な呪文のひとつなのだ。

 それ故、本来ならば、使いどころは十分にあるはずなのである。しかし、多くのユーザーはそんなこと知ってか知らずか見向きもしなかったのだろう。

 とくに単純に与ダメージで有用無用を判断しがちな子供キッズ達からの評価なんて、使ってみたけどマヒャドより弱いじゃん 使えねー となるのが関の山なのである。最も、付け加えるならば、当時のゲームシステム的に呪文選択時にその効果や範囲が一目でわかるような表示がないという、今の視点からすればとてつもなく不親切な設計だったため、それも多分に影響したのではないかと思う。

 新しい呪文覚えたから、さっそく使ってみようぜ! 効果分からないからとりあえず試し撃ち~♪ と、まず一回唱えてみて、そこで効果を確認するというのは、説明書や攻略本を持たないユーザーの処世術だったのだから。そこで、もし複数モンスターが登場していたならば、その全体に効果が及ぶことで、これが全体呪文だと判別が利くわけだが、なまじ単体登場時に唱えてみたとして、そのときにダメージがマヒャドより少なかったのならば、気の短いユーザーからすれば、即戦力外通告間違いなしなのだ。

 その意味で、もしこれが設定どおり順序よく習得されるようにプログラミングされていたら・・・と悔やまれるのだ。

 

 では、もしこれが設定どおり習得されていたならば、どうだったのかについても考えてみよう。本作は後にスーパーファミコンでリメイクされているのだが、こちらではきちんと習得順が設定に忠実となっており、ならばこのリメイク版をプレイしてみてヒャダインの使い勝手を・・・というわけにいかないのが、またややこしいところ。

 このリメイク版、1996年の発売なのだが、この時期というのが、既にⅤはおろか、Ⅵまで発売された後の作品なのだ。

 つまり、それらで培った要素が多分に盛り込まれていて、誤解を恐れず言えば、純粋なリメイクとはいえないモノとなっているからだ。

 名誉のために付け加えるわけではないが、このリメイク版も決して悪くはない。

基本的なストーリーは変わっていないし、むしろ旧作では、表現しきれていなかった部分も描かれたり システムも一新されているが、これはこれで嫌いではない。

 

 ただし、今回の検証となると話は別である。全く役に立たないのだ。

 それは、脳筋が脳筋でなくなったからである。そう、従来単体攻撃だった鞭はグループ攻撃となり、新規登場したブーメランは全体攻撃が可能。さらにそれらを器用に使いこなし素早いという盗賊という新職が追加されたおかげで、下手をすれば、別に攻撃呪文なくてもいけるんじゃね?という発想がライトユーザーでさえ簡単に想起できるような代物なのだ。 これはもうヒャダインがどうこうの話ではなく別次元である。 

 そんなリメイク版でさえヒャダインは残してあるのは、何ともいえない心境にさせてくれる。役立たずを敢えて残す文化?は、このあたりから始まっていたのかもしれない。それとも 習得順の問題で混乱を招いた過去への清算のつもりか?(言い過ぎか) ともかく、何も思わずにはいられないのであった。


 

 

 

 

 

 

 





 

 

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