第 3回   ヒャダインを追って  

 茫然と立ち尽くす筆者を眺めながら不思議そうにする友人たち。

 どうやら何かがショックだったらしいということは、察してはいるようだ。

 しかし、まさかヒャダインという呪文ひとつの存亡にここまで感情的になれるヤツがいるなんて、きっと思いもしないだろう。人間なんてそんなものだ

 

 それでも気を取り直して、他のグループにも当たってみた。


「あの、ちょといいかな? ドラクエⅤのことなんだけど・・・ヒャダインってどうなってる? そう、あのヒャド系の・・・」


 まるで身辺調査を依頼された探偵である。しかし、探偵と違うのは依頼人がいないというところである。何やってんだかという話である。

 

 一通りの調査?の結果、分かったのはやはりヒャダインは未登場のようだということ。それから、ヒャドに関しても登場はするけれど、あくまで中盤で一部のモンスターが使用してくるのみで、プレイヤーは使用できないし習得もしないということ。

要は、先ほどの連中の会話の裏付けを執ったというだけのことである。

 

 さて、そんな経緯もあり、筆者のドラクエⅤ初プレイは、それを確かめる旅ともなった。そう、自分の眼でヒャダイン登場しないドラクエがどんなものかを体感するのだ。

 

 ドラクエⅤでは主人公は青年期になると自らの特殊な能力を知り、モンスターを改心させることで仲間にできるのであるが、最初にヒャド系が登場したのは、この仲間モンスターであるイエティを仲間にした後だった。この前作にも登場した雪男イエティというにはあまりに可愛らしく憎めない外観を持つモンスターが、経験を積むことでヒャダルコを習得したのだ。

 その後、先発組から聞いていたように、ポートセルミという港町付近をうろついていると、魔物の魔法使いが登場。正直弱いのでワンパンといきたいところだが、わざと防御でもして少し粘ってみる。もちろんヒャドを使わせたいが為である。

 しかし、魔法使いという同名モンスターは、シリーズ通して度々登場しているが、そのデザインは毎度違い、今回のⅤでは、か細い腕を振り上げ襲い掛かってくるようなポーズがなんともおぞましさを感じさせる。

 そういや、こいつ親分ゴーストの色違いなんだなぁと幼少期にレヌール城で対峙した本作初ボスのことを思い出しながら、粘ること約3ターン ようやくヒャドを放ってくれたので、そのまま父親パパス形見の剣で一刀両断 即戦闘終了。

 すると、この親分・・・もとい、魔法使いがひょこりと起き上がりこちらを視ている・・・ん~気色悪い! ではなくて、どうやら仲間にして欲しいらしい。

 仲間になってもヒャド使えないんだろう。つまらないなと内心思いながらそれでも仲間にしてやると、どうやら名前はマーリンというらしい。ああ、これか!友人たちが話していたのは そうやって漠然と聞いていた内容に気付くのもまた楽しいものである。

 さて、この後紆余曲折あり、青年時代後半 主人公の双子の子供たちが仲間に加わるのだが、この娘(一応リメイク版ではタバサというデフォルト名あり)のほうが、ヒャド系とイオ系の攻撃呪文の使い手のようだ。無論 事前情報どおり、ヒャダルコ、そしてマヒャドのみの習得だった。

 

 なるほど・・・とりあえずⅤを一通りクリアしてみての感想は自分でも意外なくらいシンプルなものだった。

 このⅤという作品はその親子三代に渡るストーリーに定評がありそれについて語られることが多いだけに、今回の筆者のようにまさかこの作品についてヒャド系の在り方から切り込むことはあまりないのではないだろうか。

 その意味でも、このⅤをプレイしての筆者の感想を是非聞いて欲しい。


 このように、シンプルに心に落ちたのは、自分の中でその疑問が解けた気がしたからだ。

 結論からいえば、今作(Ⅴ)で、ヒャダインが消えたのは必然的だったと思えたのだ。

 まず、ⅢやⅣのように、序盤に魔法を得意とするキャラが登場しない。登場してもせいぜい妖精のベラや幼馴染みであるビアンカくらいで、彼女らにはメラ、ギラで事足りるのである。とくにベラの場合は妖精の国では雪の女王との対決もあり、ダンジョンも氷である。敢えて氷属性を持たせる必要性がなかったといえるのではないか。

その意味でヒャドが味方の習得から除外されても、それは当然だったのではと思えたのだ。

 尚、後年の話になるがプレイステーションにフォーマットを移して発売されたⅦでは、同様に序盤に不要と判断されたためか、一見するとⅤと同じように味方呪文から再び消えたと思わせておきながら、実はモンスター職である死神貴族が熟練度で習得するようになっている。ただ、この死神貴族への転職自体が、超難易度であり、初見やライトユーザーはヒャド習得どころか、この職業すらお目に掛かることはないだろう。

つまり、そこまでして覚えたところで、それは実用性は皆無なのである。

だから、実質 コレクションでしかないのである。 そう、このコレクションという概念が当時と現代の認識の差異かもしれない。

 このⅦのように、実用的か否かは度外視してでも、呪文枠をコンプリートさせたいというようなユーザー心理に対応した造りに開発側の認識が追いついていなかったのかなと 勝手ながら邪推するわけで もちろんこれは筆者の持論であるが 


 さて、話を戻すが、ヒャド不要についてはとりあえず解決させたつもりだが、では肝心のヒャダインはというと、これはヒャドと違いその存在自体が抹消されているわけで、ちょっと事情は違ってくるはずである。

 ここで、ふと思ったことがある。本作では、主人公の息子(デフォ名はレックス。妹と同じく後付けだが)が、天空の血を引いた勇者という一風変わった設定なのだが、その勇者である息子が、習得するディン系呪文を使ってみたときのことである。

 実は、ディン系呪文もヒャド系と同じく段階ごとに効果範囲の変化する呪文である。但し、勇者専用であることから、Ⅲの時点では魔法使い専用のヒャド系を語る上で参照にしなかった。

 ディン系の歴史も勿論Ⅲからなのだが、初出のⅢでは下位で単体攻撃のライディンと、上位でⅢ最強の攻撃呪文でもある全体攻撃のギガディンの2種のみの登場だった。 それに続くⅣではパーティ全員のMPを集めて敵一体に大ダメージを与えるというミナディンが最上位に加わった。これで3段階である。

 Ⅴに登場するのもこの3段階なのだが、この範囲に修正が加えられていたのだ。

 まず、下位のライディンが単体から全体攻撃に生まれ変わったのだ。しかもダメージは据え置きである。これは完全な強化である。

 このおかげで、本作最凶と名高い、あの封印の洞窟でも娘のイオラと、この強化されたライディンがあればレッド&ブルーイーターの群れを一網打尽にできるのである。 これは、強化されるべくして強化されたといっても過言ではない。

 思えば、そもそも魔法使いなどと違い前衛で肉弾戦が十分通用する勇者という職業に単体攻撃呪文は確かに不要だったといえなくはない。もちろん、Ⅳでの盗賊バコタ戦など、要所では役立つかもしれないが、基本的には直接攻撃のほうが逆に強かったりするくらいだ。ⅢやⅣでは、そういやライディンなんてそうそう使ったことないなって方も多いんじゃないだろうか。

 逆に上位のギガディンはその範囲が全体からグループへと範囲が狭められいる。こちらは弱体化ってやつである。

 なるほど、これも確かに。従来の作品では今一だったライディンと比べてこのギガディンは無類の強さを誇ったから 弱くしてゲームバランスをとるのは理に適ったやり方ではないか。

 そう、そうなのだ。このⅤでは各呪文を調整してゲームバランスを保つよう図っているだろう。

 その一環として、ヒャダルコとマヒャドの間にこんなの要らないよねってことで、ヒャダインがリストラを喰らっても何ら不思議はなかったのではないか。

 そう考えた結果が、先ほどの なるほど・・・へと繋がったというわけである。


 確かに、Ⅲであまりにも増えすぎた呪文たちは最初から、こう飽和してどこかで処理される運命にあったのだろう。

 本作でのヒャダインのリストラにはこのように自分なりに納得したつもりではあったが、話はこれでは終わらない(終わらせないのである)

何故なら、本作以降も、ヒャダインは復活することはなく現在まで来てしまっているのだから (※2020年8月現在。ナンバリングタイトルに限る)

 ヒャドは不要でもコレクション扱いで登場させるような図らいを見せても、やはり

ヒャダインだけは無理なのは何故なのか

 こうもヒャダインを不遇に追いやるその理由は一体何なのか

  

 そのあたりについて、今度は実際にヒャダインが登場したⅢ、Ⅳの2作品でのその存在意義に注目することから紐解いていきたい。 

 

 

 



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