ある晴れた日の白昼夢

しれ

ある晴れた日の白昼夢

ちょっと、森の奥に出かけてみると、山のふもとできつねが足をひきずっていた。


そして、私を見つけると逃げようとせずにこの世の終わりみたいな顔をしていた。


「どうしたんだい?そんな顔して。」

そういうと、きょとんとして

「おや、私を食べに来たんじゃないのか。」

とまじまじと顔を見てきた。


「あっはは。何を言ってるんだ。そんなことするはずないじゃないか。第一私はきつねを食べる習慣なんてないさ。」


すると安心したかのように

「そうですかい!

…じゃあちょっとお願いしたいんですが、この罠をとってくださいますかね。」

そういうと引きずっていた後ろ足をよっこいしょと私のほうに向けるとその足についている縄をみせた。


「ありゃあ、見事に引っかかりましたね。というか、何で罠に引っかかったんですか。」

そういうと、いやあーと少し照れながら言った。

「友人を追っかけてまして、私けっこうどんくさいもんでね、足元見ずにきょろきょろしてたら、足をすくわれちゃいまして… それも、今あなたに外していただいて分かったんですが、どうやら狩りのための罠ではなくて、子どもがイタズラで作ったやつみたいですね。まったく、お恥ずかしいもんです。」

そうなのですね、と私も一緒に苦笑いすると、ぽいっと罠を近くの川に放り投げた。


「罠が古くてよかったですね。罠にかかった途端に切れたみたいで。」

そうなんです!ときつね。

「でも、運が良かったと思ってやっとの思いでふもとに来たのに、あなたに見つかってもうだめかと思いましたよー。」

そういうと、さっきまで縄がかかっていた足を確かめるように動かした。

「でも罠にかかったんだから安全に外すために家に帰ればよかったのに。」

というと、

「まあ、ちょっとね、もうすぐ分かると思いますけど、理由があるんですよ。」

「へえ、たのしみですね。」

そういった瞬間だった。

ぽつん と冷たいものが降ってきた。

でも空を見上げると、雲ひとつない真っ青な空。


あ!


「おお、これは…!」


「ふふ、気づきました?」

そういうと少し顔を赤らめた。


「結婚式なんです。私の妹の。」


そうなんですか!と思わず拍手をした。

「ほら、そちらでもあるでしょう?結婚するときにいい月とか日とかって。」


「今日がその日なのですね。」


「そうなんです!ちなみにもうすぐもっといいものが見れますよ。」

そういうとクイッと首でまた空をさした。


「おぉ…虹だ…!しかも二重になってる…!」


「お祝いの花火のようなものですよ。友人がかなり張り切っていましたので…。幼い頃からの仲ですから。」


きつねは、そうだ!と思い出したように何かごそこぞ用意すると、ふふっと笑いながら

「虹がみれたお礼です。」

と言って古びた鈴を出してきた。


「中身をなくしてしまって鳴らないんですけどね。

宝物なんです。」

痛めている足を少し引きずりながらこちらに近づくと

丁寧に私の掌の中にその鈴を入れた。


さてと、ときつねは一息つくと

「これから二次会が始まりますゆえ、妹と友人が待っておりますので。」

と言って、森に帰っていく。


「本日はありがとうございます。また会えますことを。」


「こちらこそ。またいつか。」


瞬間、ものすごい風と木のさざめきが聞こえて

いつのまにやら夕方になっていた。


あれ、私はなんで…きつねと話していたのだろう。

当たり前のように話をしていた自分が可笑しくて少し笑ってしまう。


手に握りしめていた鈴を振ってみた。


「ふふ、本当だ。鳴らない。」


あたりが暗くなる前にふと山の方を振り返った。


ケーンケーン…

遠くの方できつねの鳴く声が響いていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ある晴れた日の白昼夢 しれ @siren_

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ