白濁神、降臨す

 その日は珍しく、薫子の方から呼び出しがあった。ははぁ、さては薫子、遂にわたしの魅力に陥落したな? 今夜は帰さないぞ! 期待に胸を膨らませ、わたしは待ち合わせ場所であるいつもの喫茶店へと向かった。



 ──その途中で、わたしは「それ」を見つけた。



 長さ50cmくらいの、棒状の赤黒い物体。人通りのほとんど無い道の真ん中にぽつんと置かれたその物体は、ぴくぴくと引き攣ったような動きを見せていて、それが生き物であることを窺わせる……っていうか、それよりも何よりも!


 顔が自然と熱くなるのを感じて、わたしはぶんぶんと首を振った。やばい。あまりの光景に、しばし放心していたみたいだ、わたし。もっとしっかりしなくっちゃ……!


 いくら見慣れていないとはいえ。こんなことで恥ずかしがってどうする? い、いくら、その、その。


 目の前に転がっているのが、男の人のアレだったとしてもだッッ!!!


「そうだ、薫子が待っているんだから! こんなことで立ち止まってはいられない!

 えいっ! この公然猥褻物めが! ゴミがっ、消えろぉ!」


 できるだけ見ないようにして、わたしは「それ」を車道へと蹴り飛ばした。「ぶぎゃっ!?」とかいう悲鳴が聞こえたような気がしたが、無視して再び歩き始める……でも何か、蹴飛ばした時の感触が……微妙に足裏に残ってて……恥ッ!


「こりゃ、そこの腐れマムコ! 仮にも神であるこのワシをゴミ呼ばわりし、挙句の果てに蹴り飛ばすとは何事じゃ!? そこに直れい!」


 後ろからしわがれた声が聞こえて来る。今現在通りにはわたししか居ない。ということは当然のことながら、その声はわたしに向けて発せられているもので──ええい、無視だ無視!


 決意を新たに、歩き去ろうとしたその時。


「ほう? 無視とはますます良い度胸じゃな。ならば嫌でも振り向いてもらうぞ。くらえぇぇいっ!」


 ──物凄く嫌な予感がして、わたしはその場を飛び退いた!


 直後、轟音と共にアスファルトの道が大きく陥没するッ!


「なっ……にぃぃぃっ!?」


 信じがたいことに。それまでわたしが突っ立っていた場所には、「それ」が深々と突き刺さっていた。アスファルトを貫く程の破壊力! 刺さったまま、びぃぃぃぃんと揺れ動いている姿が、衝撃の大きさを物語っている。いや、それよりも何よりも、わたしの精神に与えた衝撃の大きさが勝っているのだろうがッッ……!!


「惜しい。実に惜しいのう。我が『挿入突(つき)』をかわす程の力量の持ち主でありながら、不信心者であるが故にワシはお主を粛清せねばならん! どうにもこうにも、その腐りきったマムコの責任じゃのう!」


 ゆらり。「それ」の周りの空気が、不気味に揺らめく。どす黒いオーラのようなものまで立ち昇っているような気がするのは、わたしの気のせいだろうか? とりあえずアレがさっきからわたしに話しかけて来ているのは間違い無いようだが……できれば間違いであって欲しかった……。


 ぼこぼこっ。先端部をアスファルトに突き刺したままの状態で、「それ」から細長い手足が生えた。それらをじたばたと動かしながら、「それ」は自らの身体を地面から引き抜こうとする。……が、残念ながら、届かない。


「──あれ?」


 間抜けな声を上げる「それ」。助けを乞うようにこちらに手を伸ばして来る姿は何とも同情を誘うが、それはそれ。


 わたしは全力で、その場から逃げ出したのだった。ぐっばい、男性器ッッ!!!



「はぁ、はあ……こ、ここまで来れば……」


 しばらく走り続けた後、辿り着いた公園のベンチに腰を下ろす。目的地である喫茶店「Choko De Chip」はもう目の前だが、ちょっとこれ以上は走れそうにない。普段使わない関節の筋肉がズキズキ痛む。畜生、こんなことなら薫子と一緒にジムに通っておけば良かった。


 ──しかし、それにしても。アレは一体、何だったのだろう。いや、アレはアレで間違い無いと思うのだが。アレといっても極太の、マグナムサイズだ。そりゃあ、なかなかお目にかかれるものではない。この国では、特に。普通はモザイクかかってるしねー。


 って、そういうことではない! アレが喋って、自律的に動いた、ということが問題なのだ! 何だあれは、猥褻物のクセに生意気な! こ、このわたしに、挿入までしようとするなんて……信じられん! どこのアダムスファミリーだ!?


「神だ」

「神だって!? ふざけんのもいい加減にしなさいよー! ……って……」

「ようやく追いついたぞ、腐れマムコ」

「ぎゃあああああっ!?」


 突如頭の上に落ちてきた「それ」を、毛虫でも振り払うかのように落として悲鳴を上げる。我ながら今回は挙動が激しい! ついてこれるかな!? わたしはちょっと限界だ!


「くくくくく。思い知ったか。神からは決して逃げられないのだぞ!」

「わ、わかったから。あ、あんまり、近寄らないで」

「ならば前言を撤回せよ。そしてワシに許しを請うが良い。今なら口内奉仕で許してやらんでもないぞ? んん?」

「ひぃっ!?」


 先っぽの亀さんの部分がパカッと開いて、中からぎょろりとした眼が飛び出して来た。どこのホラーだこれは。さすがのわたしも、そろそろ失神するぞ?


「何? やっぱり挿入して欲しい? ならば仕方あるまい。民草の穢れを清めるのも神の務めというもの。その熟した果実のように腐れただれたオマムコに挿入し、我が聖液でもって浄化してくれようぞ。いざ!」

「……もう、いい」

「んん? 何、後ろの穴にも入れて欲しいと? なんと贅沢な。神のエキスは本来無垢なる乙女のためにある。貴様のような賞味期限切れのマムコのために無駄に消費する白濁など無いのだが……真摯に乞うのであれば、入れてやらんでもないぞ。さあ、我に祈りを捧げるが良い! 賛美歌斉唱、さんはい!」

「もういいから……本当」

「何じゃと、口にも出して欲しい!? どこまで貪欲なのじゃお主は!? さしものワシも、一日三回は──」

「もういい、っつってんでしょ!? それ以上喋るな猥褻物!」

「ほんぎゃああああああっ……!!!」


 ばっちいのに触りたくないとか、そんな気持ちはもう無くなっていた。気が付くとわたしは、自称「神」をぶん回し、地面に叩き付けていた。何度も、何度も。


「はぁ……はぁ……さっきから、腐れマムコ、腐れマムコって……未使用だっつーの……糞がッ!」

「す、すまん。それはワシが悪かった……ほら、謝ってるんだからもうやめてェッ……お願い、ぷりーづっ……!」

「やだ」

「い……いやあああああああっ……!!!」


 ばこん、ばこん。何度も叩き付けている内、段々と慣れて来た。何だコイツ、大したことないじゃん。そりゃ見た目はアレだし、感触も……アレだけど! 少なくともこんなのに、貞操の危機を感じる必要は無さそうだ。それに気付いた時わたしは、ベンチから立ち上がっていた。そろそろ疲れて来たし、そうだな。


「埋めよう」


 ぼそりと、「それ」には聞こえないよう小さな声で呟いて。わたしはゆっくりと、砂場の方へと歩き出したのだった。



 喫茶店「Choko De Chip」は、平日の昼間はお客さんもまばらで、席も選び放題だった。そんな時わたしは、窓際の、景色の良いテーブルを選ぶことにしている。特に今の季節は、咲き始めた桜の花が町を彩っているのだ。観ない手は無いだろう。デートの雰囲気も良い感じになるしね。ここ重要。


 そんな訳で、薫子がまだ来ていないこともあり、わたしは窓際のいつもの席に座った。直ぐにウェイトレスさんがやって来る。金髪ゴスロリウェイトレスのマリアたんだ。いつもなら発狂したんじゃないかと思う程にわたしに擦り寄って来る彼女だったが……今日は何故だか、引き攣ったような笑顔で一言、


「大きいんですね」


 と言って、すごすごと引き下がってしまった。何だ今の、敗北感に包まれたベ●ータ様のような表情は。っていうか、注文取りに来たんじゃなかったの?


「おうおう、眼福眼福。やはりハメるのなら、賞味期限切れより未熟な青い果実に限るのう! くくくくく」

「その意見には大賛成。やっぱ時代はロリよね、ロリ! ……とはいえ、このご時世、迂闊に●学生に手を出すとタイーホされちゃうのよねぇ。はぁ、おねーさん悲しいわぁ」

「何と! この時代ではハメるのに年齢制限があるのか!? 信じられん! 何と言う屈辱! 神を冒涜しているとしか思えない!」


 二人してこの世の不条理について嘆き、はぁ~~~と盛大に溜息をつく。……って、あれ、二人? 恐る恐る、視線をマリアたんから移していくと。


 同じテーブルの向かいの席に、「それ」がちょこんと座っているのが目に入った。


「な、なななななっ」

「何じゃ? ワシの顔に、カウパーさんでも付いているのかね?」

「何でアンタが、ここに居るッ!?」


 とりあえず叫ぶ。不条理を嘆くよりも先に叫んでおく。その方が後悔しないで済むから。


「埋めたはずなのに!」

「砂場の砂は崩れ易い。遊びに来た子供達がな、直ぐに救出してくれたわい。そして今! 神の名の下に、罪深いお主に審判を下すべくやって来たのだ!

 さあ覚悟せよ! この白濁神、ペ──」

「ごめんごめん美沙樹ちゃん。遅くなっちゃってー」


 ぐしゃ。自称・白濁神なんたらは、その名を最後まで告げることができなかった。今頃やって来た薫子が、「それ」を下敷きにしてしまったからだ──南無ッッ!!!


「あれ? 何かこの椅子、カタいような」

「気にしない、気にしない! それより薫子、用事って?」

「あ、そうそう。あのね、実は──」


 その後薫子の口から聞かされた内容は、わたしにとってはかなり衝撃的なものであったはずだが。


 薫子のお尻の下でアレがどうなっているのか、そればかりが気になって話に集中できなかった。



 それから一時間後。

 わたし達が立ち去った後、ようやく解放された「それ」は極太フランクフルト状ではなく、皮付きウィンナーへと変わり果てていたという。


 周囲には牛乳のような液体が付着していたというが、それはさだかではない。


 何にせよ、悪は滅びたのだ。めでたし、めでたし。



「これで終わりと思うなよ!?

 白濁神ペニッシュ、改めて降・臨ッッ!!!」



 ……って。

 続くんかーい。



 今日の日記:

 今回の話は読み飛ばしてもらっても全く構わないと思う。

 うん、全然構わないと思う。むしろ忘れて? お願い、ぷりーづッ!!


 それでは、明日に続くのだっ(はぁと)

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

うらきょ!──死にかけ女子のエロゲーライフ!── すだチ @sudachi1120

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ