第43話 反逆罪

「信じられないわ……こんな事が……」 


驚きに思わず声を上げる。

ここは異界竜が去った後の死の山。

その中にある封印の間で、私はとんでもない物を目にする。


「敵を動きを封じ、巨大な伝説級の竜すら殺すスキル……」


今私が見ているのは、この場で起きた過去の現象。

これは予言者のクラスに就いている異世界人から得たスキルだ。

その映像の中で、ゴミの様に此処へ放り込んだ異世界の男が、異界竜を一方的に始末するシーンが流れていた。


「まさかハズレと思っていた奴が、大当たりだったなんて……大誤算だわ」


映像を早送りする。

再び男が現れ、死んでいた筈の異界竜が起き上る。

異界竜は不死身であるため、生き返った事には特に驚きはない。


が――


「何かを渡した?」


音声は聞こえないが、男が異界竜から何かを受け取っているのが見えた。

映像を止め近づいて確認する。

それは光を放つ小さな球だ。


「これはまさか、盟約の証!?」


男の手に持つ者は間違いなく、異界竜を縛り付ける為に祖先が施した封印の核だった。

どうやら殺されたショックで外れてしまった様だ。


「全く、余計な事をしてくれた物ね」


あっさり死ねば死ねばいい物を。

そんな気持ちで吐き捨てる。


「でも、まあいいわ」


男のスキル。

それさえ手に入れる事が出来れば、異界竜を捕らえる事は難しくない。

魔人の再封印においても役立ってくれるだろう。


「役に立たないわね」


「申し訳ありません」


修復したゲートを通って城に戻った私は、さっそく配下に男の捜索を命じる。

死の山に派遣した生き残りの報告の中に、傭兵を雇ったと言う物があった。


タイミング的に異界竜の復活と完全に重なる事から、その傭兵を異世界人と断定して徹底的に調査させたのだが……カンソン村を出たあたりからの消息を掴む事が出来なかった。


まあだが、全く得る物が無かった訳ではない。


ヘキソン村の村長の息子夫婦。

その養子の娘が、王家のみの特殊なクラスに付いている事。

そして、その娘が例の男に付いて行った情報だ。


「まさか、生きていたなんてね」


10年程前、私は配下に妹を始末する様命じている。

生きていれば後々、跡目争いで揉めると思ったからだ。


国の為を思い、断腸の思いで切り捨てたのだが……そんな私の思いを、どうやら配下は裏切っていた様だ。


「ご苦労だったわね。貴方、いえ、貴方達には休暇を上げるわ」


「は?」


兵士に向かって告げる。

もちろん本当に休暇などやるつもりはない。

この男は私の妹、リーンの生存を知ってしまっている。

その部下達もそうだ。


この情報が外に出回るのは、余り宜しくはない。

彼らには、この国の為に死んでもらうとしよう。


「――悪いけど、お願いできるかしら?」


その旨を、玉座の横に立つ明神にこっそり耳打ちでお願いする。

彼なら遺体を残さず、綺麗に始末してくれるだろう。


「分かったよ。そのかわり…… 」


「ええ、今晩はサービスするわ」


彼の下卑た顔に、妖艶に微笑み返した。

下半身に脳みそが直結しているのではと思う程、彼は扱いやすい。


「細かい報告の確認をするから、部下達を全員集めろ」


「は、はい」


明神に命じられ、兵士は逃げる様に玉座の間から出て行く。

ひょっとしたら、気づかれているのかもしれない。

だが逃げ出そうとしても無駄な事だった。


勇者からは逃げられない。


明神は既に彼をマーキングしている。

彼から逃げ出す事など不可能だ。


「じゃ、後でな」


明神はウィンクして投げキッスまでしてきた。

不細工なその顔で、よくそんな恥ずかしい真似が出来る物だ。

勿論そんな事はおくびにも出さず、私は笑顔を返した。


さて、後は裏切った配下の始末だが。


「ベレス。私の言いたい事は分かるわよね?」


「そ、それは……その」


ベレスは横にいる宰相の名だ。

私に睨まれたベレスは禿げあがった頭部片手で押さえ、視線を足元に下に落とす。

この男の友人であり、旧騎士団長だったガイレスという男が暗殺を引き受けた人物である。


「ガイレスに任せるよう、私に言ったのは貴方よね?」


「彼の不始末は、この私が必ずや正して見せます!」


「そう、期待しているわ。ああ、逃げようだなんて思わない事ね、私からは逃げられないわよ?しってるでしょ?」


「も、勿論です」


私の言葉に、彼は青い顔でコクコクと頷く。


勇者にマーキングされた者は、たとえ地の果てまで逃げ込もうとも無駄だった。

何処にいようとも、その居場所は手に取る様に把握されてしまう。

そして恋人関係を結んでいる私にも、当然そのスキルを使う事が出来た。


「では、私目はこれで」


ベレスが速足で玉座の間から出て行く。

此処にいたのでは生きた心地がしないのだろう。


「さて、と。後は二人を見つけるだけなんだけど」


王家の基盤を揺るがしかねないリーンの存在。

そして魔人の再封印に必要な力を持つ滝谷竜人。

二人の居場所を出来るだけ早く割り出す必要があったが、その後しばらく捜索が進展する事は無かった。


だが事態は急転する。


そろそろ私がいらいらしだした頃、配下から連絡が入ったのだ。

それは捜索隊ではなく、王家を良く思わない勢力に潜り込ませていた者からの情報だった。


「ふぅん。ベルベット家のじゃじゃ馬娘が、急に死んだ私の妹の事を調べてる……ねぇ」


その時私は確信する。

例の異世界人と、自分の妹にベルベット家の令嬢が関わっている事を。


「丁度いいわ。彼女には異界竜を解放した罪を被って貰いましょう」そう心の中でほくそ笑む。


幸い異界竜による被害はまだ出てはいないが、いずれバレるのは時間の問題だった。

ならば異界竜の事を隠し続けるよりも、彼女に責任を被せ、その上で封じれば――滝谷竜人の力を利用し――責任を逃れると共に、私の評判を上げる事も可能だ。

正に一石二鳥と言えるだろう。


「ベルベット家を、王家反逆の罪で抑えたいの。力を貸してくれるかしら?」


「ええ、いいわよ」


「任せろ!」


聖女と聖騎士の二人が笑顔で答える。

彼女達も私の恋人であり、言いなりの人形だ。


「頼もしいわ。お願いね」


餌をねだるかの様に尻尾を振って私に寄って来る二人に、口付けをくれてやる。


さあ、餌は上げたわ。

私のために働きなさい。

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