第44話 隠れ家

「来週処刑だそうだ」


隠れ家に戻って来たライラさんが、しかめっ面で口を開く。


「来週処刑……その情報、間違いないのかい?」


「ああ。反逆罪でベルベット家は取り潰し、一族全員処刑さ。王都じゃ大々的にアナウンスされてる」


ここはアイシャさんが何かあった時用に用意されていた、王都近辺にある隠れ家だ。

屋敷からの報せを受けた俺達は、真っすぐここを目指しそれ以来ずっと身を潜めていた。


「一週間後には処刑か、動きが早いね」


ギルドが王家に抑えられてから、まだ1月しか経っていない。

ベルベット家が上位貴族である事を考えると、処刑までの期間はかなり短いと言えるだろう。


「裁判なんて、あって無い様なものだったそうです」


ライラさんと一緒に情報収取に出ていたシャンディさんが、悔しそうに呟いた。


「異界竜を解放しての国家に対する反逆だなんて、滅茶苦茶よ」


異界竜の出奔。

アイツはベルベット家が偽の王家の人間を神輿に据え、国家を転覆させるため異界竜を解放したとして、アイシャさん達にその責任を押し付け様としていた。


勿論そんな訳はなく、完全な言いがかりだ。

本来なら、幾ら女王でもそんな無茶な難癖は通らないだろう。

だが今のアイリーンには異世界人――つまり俺のクラスメイトが付いていた。

聞くところによると、皆あの女の言いなりだそうだ。


かけられた魔法のせいか、もしくは全員綺麗に懐柔されたのかは分からない。

だがとにかく、異世界人の圧倒的武力を背景に、アイリーンはやりたい放題やっていた。


「それで?どうするんです?」


聞くまでもない事ではあるが、猶予が余りない事から一応確認しておく。

作戦を決行するかどうかの。


「少し巻きになるが、勿論助けに行くさ」


ライラさん達は、初めからそのつもりで準備を進めていた。

俺もそれには助力すると、もう伝えてある。

言い方は悪いが、これは俺にとってのチャンスでもあるのだ。


そう、あの糞女――アイリーンに一発ぶちかましてやるチャンスだ。


今回の救出作戦は、アイリーンの捕縛もその中に組み込まれている。

単にアイシャさん達を救出しただけでは、状況は大して変わらない。

今の状況を変える為、俺達は内部の反王家派閥と協力して現政権打倒を目指す。


「頼りにしてるわよ」


テアが俺の尻を叩き、ウィンクを飛ばす。

どうやら彼女も作戦に参加する気の様だが――


「テア、あんたは残りなさい。レン、あんたもだよ」


「ママ!?」


「確かに、子供は残るべきだな」


「そんな!」


クランさんとレークスさんの言葉に、テアとレンが驚きの声を上げる。

だがそれは尤もな話だった。

国を敵に回してドンパチやろうと言うのだ、その危険度は計り知れない。

二人はそんな場所に、まだ未熟な子供達を巻き込みたくはないのだろう。


「ママ!私もママと――」


テアが言葉を言い終えるよりも早く、クランさんが彼女を抱きしめた。


「今度の仕事は危険すぎるんだ。あんたが一緒だと、私は心配で戦いどころじゃなくなってしまう。分かって頂戴……」


「ママ……」


テアは涙目で母親を見上げる。

そんな彼女を、クランさんは優しい眼差しで見つめ返した。

それは我が子を思う、母親の慈愛の瞳だ。


レンの方を見ると、レークスさんが膝をつき、真っすぐに彼の目を見て優しく諭している。

その言葉に、レンは真剣な表情で頷いていた。


「先生、俺もですか?」


袖が引っ張られる。

いつの間にかリーンが俺の横に来ていた。


「ああ、お前もまだまだ子供だからここで待ってろ」


まあ例え子供じゃなかったとしても、王家の人間を迂闊に連れて行く訳には行かない――ガイレスという男からの言質げんちでほぼ確定している。

俺も野暮ではないから、一々口にはしないが。


「俺が大人で。もっと強かったら……先生の役に立てるのに……」


悔しそうに俯くリーンの頭に、優しく手を置いた。


「リーンは役に立ってるよ。お前のお陰で、俺はパワーアップ出来てるわけだしな」


リーンは現状、俺のスキルを三つ習得していた。

空気、パーフェクトレジスト(状態異常に対する完全耐性)とインバイルド(ダメージを一度無効にするスキル)だ。


リーンがスキルを習得した事で、パーフェクトレジストとインバイルドはレベルが上がり強化されていた。

完全耐性は俺だけではなく、仲間に一時的に付与する事が出来る様になり。

ダメージ無効の方は、回数が一回から三回に増えた――しかもその内二回は、任意で発動を選べる様になっている。


「特に、インバイルドがレベルアップした恩恵は大きい。これのお陰で、間違いなく俺の生存率は飛躍的に上がってる。全部お前のお陰だよ、リーン」


「先生……必ず帰って来てね」


「ああ、約束する」


チラリとクランさん達の方を見ると、二人も説得が終わっているようだった。

そのタイミングを見計らって、ライラさんが口を開く。


「王都潜入への決行は、明日の深夜。内部からの手引きで門を越える予定だ。各自、それぞれで準備を進める様にしておいてくれ」


「了解」


この作戦では、間違いなく俺がクラスメート達の相手をする事になるだろう。

他の人間に、異世界人の相手が真面に務まるとは思えないからな。

出来れば状態異常に対する完全耐性の付与で、洗脳が解けて全員正気に戻ってくれれるのが理想なんだが……まあそう上手くはいかないだろう。


必ずしも、洗脳によって協力しているとも限らないしな。

もし自身の意思で協力しているのなら、場合によっては……殺す必要も出て来るだろう。


気乗りはしないし、やりたくはが、手加減して俺が殺されてしまったのでは本末転倒だ。

相手次第ではあるが……一応覚悟は決めておこう。

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