第28話 連携

「本当は一対一が良いんだが、流石にそれじゃバーンに失礼だからね」


中庭の一角に、何もない砂地の広いスペースが広がっている。

そこで俺はライラさんと対峙していた。

彼女の背後には、リーチェさんが白い弓をもって構えている。


ハンデという事で、勝負は二対一だった。


「師匠!頑張ってください!」


リーンが両手に握りこぶしを作り応援してくれる。

お兄ちゃん呼びは撤廃済みだ。

俺と兄妹という事にすると、彼女までテアに異世界人だと勘違いされてしまう。


テアとは後で色々と話す事があるのだが……まあ今は手合わせに集中するとしよう。


「いくぞ!」


ライラさんが突っ込んで来る。

その手には、幅広で分厚い両手持ちの大剣が握られていた。

坑道では片手持ちのロングソードを扱っていたが、それは連携の取れていないパーティーで大剣を振り回すのが危険だからだそうだ――テアから聞いた。


つまり今彼女の手にしているこの武器こそが、本来の獲物という訳だ。


「ふぁっ!?」


驚いて思わず変な声を出す。

ライラさん――障害物――を挟んで真向かいにいるリーチェさんの手から、矢が放たれたからだ。

矢はライラさんの頬を掠めて俺に迫る。


「くっ」


咄嗟に体を捻って躱す。

虚を突かれて危うく喰らう所だった。

弓なりの攻撃位は有るかと思ったが、まさかあんなギリギリを抜いて来るとは……ベテラン傭兵の連携ってのは侮れなさそうだ。


「はぁ!」


ライラさんが地を蹴り、此方に飛び掛かって来る。

裂帛の気合と共に手にした大剣が上段から振り下ろされた。


受けたら絶対剣がへし折れる。

盾で防ぐのもまず無理だ。

そう判断した俺は回避を選択する。


「うわっ!」


右に避けた俺の目の前に矢が迫る。

俺はそれを咄嗟に盾で受けた。

どう考えても、タイミング的に俺の動きを見てから放たれた物では無い。


当りを付けて撃ったのか?


「ちっ。いなされちまったか」


ライラさんが悔しそうに舌打ちする。

その口ぶりから、俺に矢が当たると踏んでいた様に見えた。


ひょっとして、ライラさんの一撃で意図的に右に誘導されたって事か?


考えてみればあの瞬間、右以外に避けようという気にはならなかった。

斬撃一つで此方の回避方向を誘導し、それに合わせてリーチェさんが正確に攻撃してきたのだとしたら……この人達の技量とコンビネーションは、相当な物になる。

能力差から二対一でも大して問題はないと思っていたのだが、その考えはどうやら少し甘かったのかもしれない。


気を引き締めて行かないと。


実戦形式の戦いであるためお互い真剣を使っている。

気を抜いて直撃を喰らうと、大怪我を負ってしまいかねない。

まあダメージ無効のスキルがあるから1発は大丈夫ではあるのだが、出来る限り特殊なスキルは人目に晒したくない所だ。


「じゃあ、次はもっと激しく行くぜ!ブースト!」


ライラさんの体に、薄っすらとオーラの様な物が纏わりついた。

恐らく戦士系のスキル。

彼女が再び突っ込んで来るが、明らかにさっきよりもスピードが上がっている。

使ったのは身体強化系のスキルで間違いないだろう。


「ふっ」


とは言え、それでも俺の方が早い。

横に薙がれた大剣を屈んで躱し、下から手にした剣を跳ね上げる。

狙いは彼女の手元――正確には大剣の刃の根元だ。


「させっかぁ!ガイアパワー!」


ギャリッと鈍い音を立てて、剣と剣がぶつかり合う。

予定では相手の剣を弾き飛ばすつもりだったのだが、パワーアップ系のスキルを使って受け止められてしまった。


「っ!?」


しかも彼女の股の間を縫うように、矢が飛んで来る。

俺は地面を強く蹴って後ろに飛びながら、それを盾で弾いた。


蒼天の雨レインアロー


澄んだ声が響く。

リーチェさんが弓に矢を番え、それを上空に向かって解き放つ。

放たれた矢は上空で爆発し、光の刃となって周囲に降り注ぐ。


俺はそれを盾で凌ぎつつ回避する。


弱攻撃無効パリィ!」


空から光の刃が降り注ぐ中、ライラさんは構わず此方へと突っ込んで来る。

見ると、彼女の体からあふれ出るオーラが刃を弾いていた。


ずる!


「はぁ!」


彼女の振るう剣を交わしつつ、盾で刃を弾く。

忙しい事この上なしだ。

同時に相手にしてると押し切られかねない。

俺は大きく後ろに飛んで刃の範囲から躱――げっ!?追いかけて来た。


レインアローは降り注ぐ方向を変え、俺を追いかけて来る。

自動追尾か?いや、違う。

チラリとリーチェさんに視線をやると、彼女は掌を俺に向けていた。

その手はキラキラと輝いている。

恐らく彼女がコントロールしているのだろう。


そしてこのスキル中は、他に矢は飛ばせないと俺は判断する。

ならばと、追って来るライラさんと上空からの刃をいなしながら俺はリーチェさんに向かって突っ込んだ。


「はぁっ!」


彼女まで後10メートルの距離。

そこでリーチェさんがスキルを解こうとするが、もう遅い。


地面を全力で蹴りつける。

足元の砂地は爆発し、俺の体は一瞬で彼女の体の前に着地した。

そして剣を薙いで、彼女の手にしていた弓を弾き飛ばす。


「勝負あり!」


彼女の首元に剣を突き付けた所で、アイシャさんのジャッジが下る。

まだライラさんが残っているが、俺の勝ちで良い様だ。


「はぁ……はぁ……くそ、負けたぁ」


ライラさんが息を切らしながら、地面に大の字で寝っ転がる。

何で彼女はこんなに息が上がってるんだ?

開始からまだ3分も立っていない。

にも拘らず、彼女の額には大粒の汗が浮かび上がっていた。


「ライラ。貴方、ずっとスキルを発動させっぱなしだったでしょ。もう少し状況に応じて細目にオンオフをしないと、スタミナが持たないわよ」


アイシャさんが倒れているライラさんの傍に近づきダメ出しをする。

どうやら彼女のスタミナ切れは、スキル仕様の反動らしい。

俺の永久コンボは消耗ゼロなのだが、どうやら通常のスキルは違う様だ。


「それとリーチェ。スキルの中断が少し遅かったわ。相手は格上の前衛で、近づかれた時点でアウトなんだからもう少し早い判断を心がけなさい」


「了解」


リーチェさんに駄目出ししたアイシャさんは、今度は俺の方を向く。

貴方はフィジカルだけで、動きがまるで素人みたいよとか言われそう。


「それじゃあ、次は私との手合わせをお願いできるかしら」


どうやら俺へのダメ出しはないらしい。

アイシャさんはにっこりと笑うと、拳を構えた。

彼女は武器を携帯しておらず、どうやら素手で戦うクラスの様だ。


武闘家か何かだろう――あるかどうかは知らないけど。


「全く疲れていない様だし、連戦でも問題ないでしょ?」


彼女の言う通り。

多少体を動かした程度でしかないので、殆ど疲れてはいない。


「いいですよ」


そう答えると、俺は剣を構えた。

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