第16話 出立

「もう行かれるのですか。残念です」


ちょび髭の死亡後、残った兵士達は最低限の治療をカンソン村で受け、早々に引き上げていった。

現状をいち早く国に報告する為だ。

まああんなデカい竜が野に放たれたのでは一大事だから、急ぐのも無理はない。


「ええ、まあ。あまり長居するのもあれなので」


兵士達は俺ではなく、全ての責任を死んだちょび髭に押し付ける様だった。

俺は死にかけの彼らを救っているのだから、当然と言えば当然の流れだろう。


とは言え、一応俺の事は報告されるだろう。

その際国の方から何らかの探りを入れられるかもしれないので、早々にこの村を発つ事にしたのだ。


勿論行先は周りの誰にも告げてはいない。

追跡されにくくするために。


「今までお世話になりました」


短い間だったが寝食を用意して貰った礼を言い、俺はカンソンの村長に頭を下げた。

彼からはこの国の情報も色々仕入れさせて貰っているので、本当に感謝しかない。


「いえいえ。こちらこそ貴方に来て頂いて助かりました」


村長も俺に頭を下げてくる。

格安でスライムを倒した事へのお礼だろう。


「それじゃあ行きます」


「リーンちゃんの事は待たれないんですか?」


「ええ。彼女の事、お願いしますね」


ヘキソンの村長や、村の人達への挨拶はもう済ませてある。

リーンには出発ギリギリの時間まで皆と一緒にいる様に言っておいたのだが、その時間はもう過ぎてしまっていた。


そんな彼女を呼びに行くほど俺も馬鹿ではない。

直前で気が変わるなど、よくある事だ。

スキルの強化は少々惜しいが、まあ仕方が無いだろう。


「分かりました。この村の長として、責任をもって彼女達の面倒は見ていきます」


「有難うございます」


ま、俺が頼んだりする様な事ではないのだが、一応師匠という事で礼を言っておいた。

俺は軽く会釈して村の門へと向かう。


目指す候補は二つ。

少し遠いが北東にある大都市ミームか、東にあると言うレンタンという鉱山都市のどちらかだ。

二つに共通している事は、どちらも人口が多く、人の流入が激しい事だった。


小さな町や村だと、新規で人がって来ると直ぐに噂になってしまう。

その点、人の出入りの激しい大都市ならその心配は少ない。

まあ別に俺の生存がアイリーンにバレた訳ではないが、気づかれない保証も無いので、その辺りは気を付けて行動していくつもりだ。


「おおーーーーーい!!」


門兵に挨拶して門を抜けようとした所で、背後から声が聞こえて来た。

振り返るとリーンの奴が此方へと駆けて来るのが見えた。


「はぁ、はぁ……師匠……置いてくなんて酷いや」


「残るんじゃなかったのか?別に無理についてこなくてもいいんだぞ?」


「そんな訳ないじゃん!爺ちゃんとちょっと話込んで遅くなっちゃったけど、俺は強くなるって決めてるんだから!」


遅刻した自覚はあるらしい。

まあ最後……かどうかは兎も角、長らくの別れになるので多少は仕方がない事か。

気を効かしたつもりだったが、余計なお世話だった様だ。


「んじゃ、行くか」


「はい!」


こうして俺はカンソン村を後にする。

弟子リーンを連れて。


まあ当座の目的は情報収集だ。

大都市圏なら、ダンジョンや召喚された人間の情報もきっと手に入るだろう。

次の動きを決めるのは、それから考える事にしよう。

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