第10話 依頼

「実は折り入ってお願いがあるのですが――」


隣村――カンソンの村長に呼ばれて応接室へと行くと、唐突に頼みごとをされる。

どうやら最近魔物が出る様になったのはヘキソン村だけではなかった様で、このカンソン村にも魔物の影がちらついているらしい。


ヘキソンと同じく、国に報告をしても無しの礫だったこの村は傭兵達を雇い――ヘキソンと違って傭兵を雇う余裕がこの村にはあった――特定した魔物の巣を潰そうとしたらしいのだが、逆に返り討ちに遭って傭兵達は全滅させられてしまったそうだ。


「ですので、どうかこの村の為に魔物退治を引き受けて頂けないでしょうか」


こんな話が唐突に俺に持ち掛けられたのは、当然ヘキソンの村長がペラペラ俺の事を喋ったからに他ならない。

ホントふざけんなって感じではある。


けどまあ――


「分かりました」


この村の規模はヘキソンよりずっと大きく、衛兵も存在している。

だが雇った傭兵達を皆殺しにする様な魔物が襲ってきたら、ヘキソンの二の舞になりかねないだろう。

流石にそれは放っておけない。


せっかく必死の思いでこの村まで逃げて来たのに、また魔物に襲われてなんていくら何でもヘキソンの人達が可哀そう過ぎるからな。

この村の人達を助ける意味も込めて、俺は村長の頼みを引き受けた。


「但し、報酬はちゃんといただきますよ」


生きて行くには金が必要だ。

ボロボロだったヘキソン村の人間にそれを要求する気にはなれなかったが、貯えのありそうな村からの依頼なら話は別だった。

異世界で延々ボランティアなど続けてられん。


「それは勿論です。只この村もそこまで経済状況が良い訳ではないので、あまり大金をお支払いする事は出来ませんが」


「傭兵に支払われる予定だった分の半額で構いませんよ」


傭兵に払うはずだった分をまるまる請求しても良かったが、これからこの村はヘキソンの人間も抱えて行かなければならないのだ。

国からの手助けも期待できなさそうだし、ここは少し控えめにしておいた。


「助かります」


村長は笑顔で頭を下げた。

まあ最初に想定していたであろう額の半分で済むのだから、そりゃ笑顔にもなろうという物だ。


「それで、どんな魔物なんです?」


「スライムと呼ばれる魔物でして」


「スライムですか?」


スライムと言えば、ゲームでは定番の雑魚キャラだった。

だが傭兵がやられたという事は、決して雑魚と侮れない力を持っているのだろう。


ヘキソンを襲った魔物の中にゴブリン――こちらも雑魚としてお馴染み――がいたが、あの小さな体で人間よりもずっと強いという話なので、ゲーム等と混同しない様に考えないといけない。


「はい。人間サイズの半透明でブヨブヨした不定形の姿でして、しかもかなり素早い危険な魔物です」


「素早いのか……」


俺のスキルは、とにかく一発当てないと発動しない仕様だ。

攻撃を避けられると発動しないので、素早い相手とは相性が悪いと言える。

だがまあスキル【空気】があるので、不意打ちで攻撃さえできればその辺りは問題ないだろう。


それに俺の身体能力は、思っていたより遥かにレベルアップで強化されている――女性中心とはいえ、10人がかりで押していた荷車を片手で軽々と押せる程に俺の力は強くなっていた。

例え不意打ちが上手く行かなくても、多分どうにでもなるだろう。


「それで、魔物は何匹ぐらいいるんです?」


「3匹です。傭兵の方が魔法で事前調査を行っていたので、それは間違いありません」


あんまり数が多いと対処するのがきつくなってしまうのだが、まあ3匹位なら大丈夫だろう。


「弱点とかってのはありますか?」


半透明で不定形のスライムには多分脳みそがない。

だから他の魔物の様に、そこを潰して即死させるという事は出来ないだろう。

有効な攻撃があるなら是非知っておきたかった。


「魔法には滅法強い魔物だそうで、傭兵の方々は切り刻んで体液を抜いて始末するとおっしゃってました」


素早い相手に良くその戦術で戦おうって気になったな……

まあだから負けてしまったのだろうが。


「剣を一本頂けますか?報酬の方から差っ引いて貰っていいんで」


門を見張っていた衛兵は剣を携帯していた。

他にもあるだろう。

それを先払いの報酬として受け取っておく事にする。


取り敢えず、俺も切り刻んで殺すという作戦で行くとしよう。

まあ俺の場合は動けなくなった相手を滅多切りにするという流れなので、傭兵達とは全く意味合いが違って来るが。


「分かりました。ご用意します」


剣を受け取った俺は、早速スライム退治へと向かう。

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