第31話 最悪な思い出がまたひとつ

僕とお父様とお母様は避暑地てある湖のある別荘へと到着した。


管理人夫妻と老犬のレックスとレックスの子供マックスが待っていた。レックスの奥さんはもう亡くなったみたい。


「レックス!久しぶり!」

とお父様が枝をぶん投げたがレックスは年なので動かなかった。


お父様は死んだ目になり、


「昔は…枝なんて直ぐに拾ってきたのに…もうボケたのかな?」

と言う。

僕は成犬のマックスに声をかけた。僕も小さい頃よくマックスと遊んだ。マックスは僕を覚えていて駆け寄ってぐるぐると尻尾を振り、嬉しそうだ。


「よしよし、マックス!お手!伏せ!死んだフリ!」

と言うとマックスはきちんとやってみせた!


「まあ!凄いわね!この子!!」

とお母様も感心した。


「縄跳びもできるんだよマックスは賢いから」

と従者たちに用意させ、まず僕が入り、


「マックス!おいで!」

と言うとマックスはタイミングよく縄をジャンプした!

お母様は拍手して喜んだ!

お父様は死んだ目をして


「ちょっとレックス…。お前も昔はできたろ?あの頃の情熱はどうした?

そんな死んだ目をして!」

と老犬にブツブツ文句を言っていた。


「この場所…見覚えが…」

とお母様が言ったので


「お母様!?」


「エル!やっぱり思い出してくれたのか!?」

とお父様が駆け寄る。

お母様は湖を見て


「……だめ。やっぱり…まだ」

と言う。


「そうか…。やはり乗らなきゃダメか…」


「ボートに乗るのですか?」

と聞くとお父様は


「それしかない…。怖いが…エルの為だよ」

と言う。そう、お父様は子供の頃湖に落ちたせいでここは怖いが、お母様との思い出の場所の一つだからと言う。

昔ここに連れてこられた時お母様も照れて


『ふふふ。ここはお父様とお母様が初めてキスをした場所よ!


あ、胸も揉まれたわ』

と言っていたので


『この変態が!』

とお父様に言うと


『あれは半分事故でしょ!』


『いえ、どさくさに紛れてしっかり揉みましたわ!この痴漢!』

と言い合いになっていた。


「とにかくボートに乗って思い出してもらうわ!」

と僕とお母様はお父様と一緒にボートへ乗る。


お父様は青い顔でブルブルしている。相変わらず怖いのに毎回乗るんだから。


「ケヴィン様?大丈夫ですか?」

とお母様が心配して聞く。


「だ、大丈夫!」

とお父様はオールを持ち青い顔で漕いだ。


「まあ、上手いですね!」


「ああっ…!そ、そうだろ?はは…」

お父様は一応オールを漕げるようだがやはり、子供の頃の記憶が蘇るのだろう。


「お母様…何か思い出しましたか?毎年ここへ来て同じようにボートに乗ってるんですよ?」

と言うとお母様は


「うーん…見たことあるような景色だけと…今ひとつ思い出せないわ…」

と言ったのでお父様はがっかりした。


「そ、そうだ、初めてエルと乗った時は喧嘩になってね。その時は私はオールを漕ぐの下手でね…。


エルが自分が漕いだ方がマシとか言ってオールを握っても力が弱くてね、それで喧嘩になったんだ」

と言った。


「そんな事で…」

とお母様は何か考えていた。


「お、思い出さないかな?」

期待を込めたようにお父様がお母様を見つめる。


「……ごめんなさい、全然これっぽっちも思い出せなくて…」


「…それはそれで結構ショックなんだけど…」

とお父様が死んだ目になったのを見たお母様が…



「うっ!!そ、その目…し、死んだような目…うううう!」

と頭を抱え始めた!


「こ、これは!!」


「お父様の死んだ目に反応してる!!」

と僕は気付いた!!


「ええっ!?な、なんでよ?」

とつい女口調になるお父様だが、


「うう!お、女…女口調…!!ううう!」


「お父様の女口調の変態にも反応し始めたよ!!」


「変態は余計よ!!」

と言うお父様にお母様は


「うう!あ、頭が痛いわ!頭が!!」


「ああ!エル!しっかりして!!」

「お母様!!」

とにかくお母様にこれ以上無理をさせられないと僕とお父様はとりあえず岸まで戻ることにした。


しかし、もしやこれは、お父様の死んだ目やら女口調で記憶が戻りかけているのかもしれない!


ならば…


「お父様!こうなれば、女装して見せたらお母様の記憶が戻るのではないですか!?」

お母様を椅子に座らせて休ませてからお父様と相談してみた。


「でも、あんなに頭を押さえているわ!無理に思い出したら大変なことにならないかしら?」


「でも、元のお母様に戻るチャンスです!」

と言うとお父様は考える。


「一つ問題があるわ…。女装するにはエルが化粧をしてくれないとダメなの。


エルは化粧の腕がいいからね」

と言う。そうだ!今までお母様が化粧をしてくれたのでお父様は外見だけなら完璧に女の人になっていたんだ!


「じゃあどうするんですか?」

と言うとお父様はガシッと肩を掴むと死んだ目をして


「私だけ女装してもねぇ。ロビンあんたも一緒にメイクアップしましょう!」

とお父様はにこりとした。

絶対嫌だ!


しかし断るとジュウドウで技を決められ、気絶してるうちに僕は女装させられるだろうし、どちらにしても、お父様からは逃げられそうにない。


「ああ、最悪な思い出になりそう…」

とぼやき、僕はお父様と女装することにしたのだ。


とりあえず別荘に隠してあった衣装

(何故か僕の分もあるし!!)に着替えて後はお化粧だが…。


「えーと、確か眉毛を綺麗に…」

とお父様が剃刀を持ったので僕は嫌な予感がして後ずさる。


「何?ちょっと眉毛を整えるだけよ?ほらこっちへ来なさい」


「嫌だ!!怖い!」


「剃刀のこと?大丈夫よ、ちゃんと綺麗に揃えてあげるわよ?」


「嫌だ!お父様の不器用さは知ってます!!自分の化粧は自分で…」


「つべこべ言うとまた気絶させるわよ?」

と脅され仕方なく僕は最早覚悟を決めた。


ジョリ…


と嫌な音がして見るとやはり眉毛無くなってた!!


「……」

僕は死んだ目になった。


「あらごめんなさい?でも眉毛なんて描けば大丈夫よ!!」

と下手くそなフォローをされたが


「…お父様の化粧は僕がしますね」

と言っておきお父様は青ざめた。


結局、白い粉をたくさんつけられむせたしもう疲れた。紅も汚いしお母様の化粧とは段違いの出来だ。


というか鏡を見てこのバケモノ誰?と思った。



「おかしいわね?美少女なのに変なコントみたいな…」

とお父様は考えるが今度はお父様の番だ!


「お父様もお化粧したください、ああ、僕はお父様より上手いですよ」

と言い、僕はわざと変なところに眉を描いたり紅も頰まで引き伸ばしてピエロみたいになった父親に爽やかに


「お父様…面白いです!」

と言った。お父様は鏡を見て


「ロビン!遊びじゃなくて真面目にやりなさい!!」


「お父様こそ!なんなんですか!?このバケモノは!」

と自分の顔を指して言い合っているとガチャリと扉が開きお母様が入ってきて目を丸くした。


「!!??」

そして微かに震えて爆笑された。

ああ、今日はやはり最悪な日だ。嫌な思い出がまた増えた。

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