第26話 暗殺者と看病

新婚生活も落ち着いてケヴィン様が執務室で仕事をしている頃、何となく体調が優れなく寝込んだ。


するとケヴィン様が飛んできて


「エル!大丈夫かい?熱があると聞いたよ!?」

と言う。側には侍女がいたのでケヴィン様は男口調だ。


「大丈夫ですわ…。お仕事中にご心配をおかけしましたわ。少し寝てれば…ゴホゴホ…」

と咳き込むとケヴィン様が額に手を充て…


「高いな。医者は手配してるけどノロノロ馬車でやってくるから到着が遅い」

と死んだ目になる。



「ねぇ、君…」

と控えていた次女のオリアーナに目を向けるとオリアーナはボッとして赤くなった。ケヴィン様はやはり顔がいいのでもはや仕方ない。


「な、何でございましょう?旦那様!因みに私には現在恋人はいません!」

と目をキラキラさせる。途端に死んだ目になるケヴィン様。


「悪いけど、蜂蜜とジンジャーを混ぜた飲み物用意してくれないか?身体が温まるんだ」

と言う。また前世の知識かしら?私はそんなもの飲んだことない。


「は、はい!!只今!直ぐに!直ぐにお持ちいたしますわ!!」

とバタバタと出ていくオリアーナ。

するとケヴィン様は私の部屋をキョロキョロと探し出した。


何をしているのかしら?


「ケヴィン様?ゴホッ」

と言うとケヴィン様は暖炉の中を除いて


「あった!」

と何かを取り出したと思うと、それはナイフのようだった。

何でそんなものがそんな所に??


「チェックが甘かったわね…。エルに同世代の侍女を付けて気兼ねなくお喋り楽しんでもらおうと思って雇ったけど…あの女…暗殺者だわ!


この熱も食事に何か混ぜられたのよ」


「ええ!?」

と驚く。


「はぁ、エルごめんね…。きっと私の存在のせいね。どこの令嬢か夫人か知らないけど社交界に出ると私の顔は目立つから…、妻の座を狙って暗殺者が雇われることが多いの。


これまでも結構色々、エルが気付かないうちに始末してきたけど今回はあからさまだわね」

と言う。


何ですって?そんな…。

私の知らないところで密かにケヴィン様が手を回していたなんて!


「とにかく心配だから私の部屋で休みなさい、ああ、今日はもう仕事はやめる!」

と言うケヴィン様は私をヒョイと抱き上げ自分の部屋に向かう。別に夫婦の寝室もあるけど、侯爵家には一応プライベートルームで夫人用と主人用の部屋も設けられているのだ。私室にも簡易ベッドが置かれている。


ケヴィン様が良く、独身時代に引きこもってたお部屋です。


貴族にしては質素な部屋で本が沢山あり、ベッドが置いてある。信用のおける使用人にしか掃除させず毎日欠かさず自分の部屋の物の位置を把握していて何か仕掛けられてないか掃除後にチェックしているという徹底ぶりだ。


「ここなら安全よ」

とベッドに降ろされ布団をかけられて


「安静にしててね」

と何か箱のようなものを取り出すと中から変な器具を出して来た。

長細い針のようなものが付いた筒状のもの?


「何ですかそれ?」


「特別に作らせたのよ。注射器って言って、採血するのに使うのよ。血を摂る

の」


「ひ!?ち、血をですか?」

と青ざめる。


「怖がらないでちょっとチクとするだけよ。私…上手いから」

と言うので


「え?何で上手いのです??」

と聞くと


「そりゃ自分にやられた時とかねぇ…」


「ええ?そんなに何かあったのですか?」


「そりゃあるわよ。ラウラがいた時とかね、あいつマジでヤバかったから気を抜けないの。自分で血を摂って調べてもらうことがあったの」

うーん、ラウラ様ならやるかもしれないなと思う。


「とりあえず血を摂るから腕を出して?」

と言うので腕を差し出すとギラリと針が見え、


「ひいいい!ま、お待ちください!ケヴィン様!!これを腕に刺すのですか?」


「そうよ?血を少しだけ摂るだけよ」


「えっ!?い、嫌です!怖い!!痛いじゃないですか!?そんなものが刺さるなんて!!」


「子供じゃないんだから我慢しなさいよ。一瞬だから痛みなんて!」


「一瞬でも針で刺すのは怖いですわ!」

と反論すると


「うるさいわね、あの女に殺されてもいいの?後でクビにするけど、毒だったら何の毒か調べる必要があるのよ!


観念なさい!私は愛しいエルを死なせたくないんだから!」

と真剣に言われると私も抵抗できなくなった。


「うう、わかりましたわ…お願いですから…、い、痛くしないでくださいね?」

と言うとケヴィン様が赤くなったので察して私の目が死んだ。


「な、何よその目は!し、仕方ないじゃないの!そんな台詞言われたら誰でもそっち方面考えちゃうわよ。

と言うからぶっ叩いておこうと手を振り上げるがフニャリと力が及ばない…。

どうも怠くしんどくなって来た。


「エル!大変…」

とチュウシャキでケヴィン様が私の腕を取り血を摂った。私の血が筒に溜まっていく。凄い…。

ちょっと痛かったけどケヴィン様は小さな布を押し当て


「ここ、ちょっと抑えてなさいね。血は直ぐ止まる」

と言い、チュウシャキを箱に入れて部屋に鍵をかけて出ていく。しばらく安静にして寝ているとケヴィン様が戻って来て何か飲み物を持って来た。


「エル…毒の成分がわかったわ」


「えっ!?も、もうですか?早くないですか?」


「うちには優秀な薬師がいるからね。致死量じゃなくて徐々に弱らせる毒だったみたい。


解毒剤もストックがあっから…さあ、これを飲むといいわ。苦しいなら口移しするけど」

と言う。


「自分で飲みます…」

と言うとガッカリしていた。

それからケヴィン様は甲斐甲斐しく私を世話した。とにかく身体が熱く汗が出るので臭いかと気にしていたら


「毒が体で少し暴れてるから熱が上がるの。汗を沢山かいて出さないとね!水分も摂って!」

と水を何杯か飲んだ。額の汗やら身体を普通に拭いてくれるケヴィン様。


「……あ、ありがとう…ございます…」

と言うと


「気にしないで。私のせいだから!あの女はクビにしたわよ。ごめんね。もっとちゃんとした人を雇わないとね…はぁ…」

とケヴィン様はため息をつき、


「これだからイケメンは罪なのよね。私がカッコいいだけに迷惑かけてごめんなさいね」

と自分で自分を褒めている。



それからようやく毒が抜け熱が引いて起きれるようになった。


「もう大丈夫です。ご心配をおかけしましたわ」

と言うとケヴィン様は私を優しく抱きしめた。


「良かった…。ごめんねエル…」

とちょっと涙ぐんでいた。私が苦しそうなのを見て責任を感じてたものね。

しかし


「元気になったし、これでいつでもイチャイチャできるわね!」

と言ったので一気に死んだ目になりパチンと遠慮なくぶっ叩いておいた。


「いったーい!顔はやめてよ!顔は!」


「相変わらずのいやらしさなのでつい…」

と言うとケヴィン様は頰を腫らしながらも微笑んだ。


「さあ、仕事を再開しなきゃね!新しい侍女も募集しないと……。


うーん、若いのはダメだし、男もなんか嫌だし、オネェでも探そうかしら?」

と言うので私は笑った。


「それならもうここにいるではないですか!ふふふ」

ケヴィン様も一緒に笑う。


そしてケヴィン様は、まだ病み上がりだし、安静にと言いいつつ、私に近づき行って来ますのキスをした。


私は愛する死んだ目の旦那様を持ち幸せだ。





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