第15話 婚約者は死んだ目で回復を待ちます

 *ケヴィン視点


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 私は廊下を歩いているメイドがエルの為に食事を持って行こうとしているところを呼び止め


「私が持って行こう。お疲れ様。君は休んでいていいよ?」

 と微笑みチップを渡した。メイドは私を見て赤くなりぺこりとお辞儀してチラチラ見ながら去った。


「さっさと行きなさいよめんどくさっ」

 と女の私の声が出る。


「これだから女はイケメンに弱いのよね…まぁ私もかつては女だったけどね…」

 と食事を運びエルの部屋をノックした。

 か細い声が聞こえて私は食事を持ち中に入った。すると…本を読んでいた可愛いエルが顔を上げた。

 その目は……死んでいる。


「ああ…ケヴィン様…メイドはどうしたのですか?」


「途中で会って食事は私が運んだのよ」

 私は女友達に話しかけるように話した。


「まぁ、次期侯爵様なのに…そんなことしなくともいいのに…」

 とエルは言う。

 彼女は私が数ヶ月隠れていたお陰ですっかり痩せて今、回復する為に頑張っている。まずは食事をしっかり取ること、それから適度な運動…。そして精神的なケア。

 エルは私と会えないここ数ヶ月ですっかり引きこもりになっていて立場が逆転していた。


 まぁ私のせいでこうなっちゃったからプロポーズして結婚することになったけど回復を待ってからということになった。

 お陰で私はあのクソ親父に何度も殴られるしホラーツ公爵様にも頭を下げまくった。


 しかしエルの目は死んでいた。


「さあさあ、エル!あーんして?」

 エルの目がますます死んだ。


「赤ん坊じゃないんですよ?私…」


「何言ってんのよ…婚約者じゃないの!しっかり食べないと体力戻らないわよ?」


「ええ…でも一人で食べれますよ…」

 と言う。


「仕方ない…私が口移しで食べさせるしかないかな…さぁ口を開けて可愛いエル…」

 と言うとエルは赤くなり


「急に男言葉になるなんてずるいですわ…」

 とどぎまぎしている。やっぱりイケメンパワーよね…。ほんと私イケメンに生まれて良かった。それだけは救い。ブサメンに産まれてたらもはや自殺してたわ。


「ふふっ…いつまでも痩せていたらウェディングドレスもスカスカだよ…。それに体力が回復しないことにはやらしいことが出来ない…」

 と言ったら死んだ目でエルにぶっ叩かれた。容赦がない。そして私は男の本能に負けた。


「あんた容赦ないわよ…イケメンの顔に…。ちょっと本能が出ただけじゃないの…」


「すみません露骨だったので…」


「まぁ露骨だったわよね…」

 と反省した。


「そうだエル…引きこもってるから目が死ぬのよ!私もそうだったわ…。運動がてら庭でも散歩しましょうよ。温室にも行きましょう!」

 と我が家の自慢の温室を案内する。


「ああ…空が青いですわ…そして光が眩しいですわ!少し生き返った気分です!」

 と外の空気を久しぶりに吸い込むエル。どんだけ引きこもっていたのかしら。まぁ私のせいだけど。


「そう言えばケヴィン様は森で隠れて快適に暮らしていて随分と目が生き生きしてますよね?どんな感じでしたの?」

 と聞くから私は…


「ええ、よく聞いてくれたわ…。サバイバル本とか引きこもっていた時にも読みまくっていたからね…その知識があって簡単にテント生活ができたわ。もちろん夜は怖かったけど火を焚いてね、何というか狩とかもしてみたのよ」


「えっ!?ケヴィン様がですか!?」


「そう…可愛らしい兎を取ったわ…そして…捌いた…。その時に泣きながらやってね、必死で料理してスープに入れて食べた…そしたら凄く美味しくて…ああ、これが食物連鎖よね…って何か悟りを開いてからはもう躊躇なく兎狩まくって食ったわ!」


「へー…」

 エルの目は死んだ。


「度胸がついたとかいうかね。それでも調味料とか欲しかったし夜中にやっぱり別荘戻って調達したわ。サバイバルだけどやっぱり味気ないのは嫌じゃない?」


「まぁ、何も味付けがないと寂しいですものね」


「そうよ…それに大自然にいるから気分も良くなってさ!後狼とか襲ってきたけどぶっ倒して1匹躾けたら大人しくなって他の狼も襲って来なくなったわ。私が倒したのが群のボスだったのかしらね」


「ひっ!!狼と闘ったなんて!!私が衰弱してる時に楽しそうなことを!!」

 とエルが死んだ目で怒る。

 狼と闘うって楽しいのかしら?


 庭に咲いている花を二人で眺める。

 いい匂いもする。


「ケヴィン様はお花が好きですよね」


「まぁ…ここら辺のは私が小さい頃植えたのよ」

 と言うと


「まぁ!凄い!!大きく育ちましたね!」


「ありがとう!やっぱり愛情もって育てるといい花が咲くのよ!」

 と言うとエルもにっこりした。


「じゃあ、温室にも行ってみましょうか…あっちはもっといい花がたくさんあるの」

 と手を引いて温室を開けようと鍵を出したが開いていた。


「あら?やあねぇ?鍵閉め忘れ?庭師のやつ…減給ね!」


「そんなこともありますわよ…」

 と言いながら温室に入ると綺麗な花がビッシリと咲いていてエルは感動して目が輝いてきた。よしよし、いいわ。この調子ね。


 しかし、奥へと歩を進めるとなんか変な声が聞こえ出した。


「あんっ…アーベルったら」


「ラウラ様とても美しいですっ!」

 と。

 私とエルは一気に死んだ目になりそして怒りが沸いた。私はバケツに静かに水を入れて声のする方に静かに歩き二人がやってる所に行ってバケツの水を思いきり二人にぶっかけてやった。


「きやっ!!冷たっ!!」


「うわっ!!………ひっ!!ケヴィン様ー!!」


 二人はもはや青ざめて衣服を直した。

 私は二人を地べたに正座させ怒鳴った。


「君達!なんて節操がないんだ!!ここはそんないやらしいことをする場所ではない!私の大事な温室だ!花が穢れる!!イチャイチャしたいなら自分の部屋でやれ!!判ったら行け!……後、アーベルは減給する」


「そそそそんなあああ!!」

 とアーベルは顔を歪ませてラウラは


「仕方ありませんわアーベル…続きはお部屋でいたしましょう!お義兄様ごめんなさい…」

 とラウラとアーベルは去った。

 私は二人がいた場所を念入りに洗う。


「きったな!!ほんと勘弁してほしいわ!!ここは…私の唯一好きな場所なのに!!あの二人ほんと許せない!!」


「ふふっ…そうなんですね…」

 とエルは今のことがおかしかったのか久しぶりに笑った。


「ここ…小さい時から今の庭師じゃないけどおじいちゃんの庭師さんがいたの。気難しいじいさんで…ベンって言うんだけど…花の手入れをしてて…前世女だった私も花は好きだったからベンとよく手入れしたの…」


「ベンさんはもう…」


「今はもう死んじゃったけどね…でも時々ここに来て私はずっと手入れしていたわ…だからここでイチャイチャしてたラウラとアーベルぶっ殺したい!!」

 と思い出をぶっ壊したあの二人に憎しみ込めて言うと


「そうですわね…やられたら倍返しでしたかしら?ケヴィン様?」

 とにんまりエルは笑い私も笑った。

 その後二人のお昼近い朝ごはんに胡椒や唐辛子をたっぷりと仕掛けておき、それを食べた二人はすぐに水をガブガブ飲んだがそれにもたっぷりと辛いものを入れておいたので二人は裸で床にゴロゴロ転がり周ることになったとメイドから噂されており、ラウラは恥ずかしさからさっさとアーベルの所にお嫁修行に行ってしまった。

 アーベルも退職して街で仕事を探すみたい。


 *


「さあ、あーんしてエル」

 とまた私はエルに食事を運ぶ。エルはだいぶ回復してきてガリガリだった身体も少し戻ってきた。そして恥ずかしそうにした。


「あの…ケヴィン様…もうほとんど回復してきましたよっ!それに何故お膝に乗せるんですかっ!?」

 と赤くなるから私は


「こういうの定番だから。私達恋人同士だろうまだ。まぁもうすぐ結婚できるだろうけど。本にもよく書いてるだろう?」


「……現実がこんなに恥ずかしいとは思いませんでした」


「恥ずかしがるエルも可愛い」

 と言うと


「うっ…ほんとずるい手ですわね…」

 と言うからイケメンの必殺微笑み殺しでエルのハートを撃ち抜き私は笑って頰にキスした。


 ああ、イケメンに産まれてほんと良かったわ。

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