第6話 ~呪術師ギルドを探して~学術都市ファルエスト

 アルーナ・ディエスを出発して5日ほど。

 山岳地帯の麓にその街はあった。


「凄い……大きな街!!」


 サリュナは目を見張った。

 大きな建物がひしめき合い、それでいてそれぞれの間隔など計算され尽くされているのが素人目にも分かる。


 飾り気はないが、なかなか見応えのある街なのだった。


 これだけの都市である、乗合馬車も当然出ているのだが、さすがに獣人に馴染みのないこの地で乗合馬車は色々とまずい。

 サリュナがトーヴァンを背に乗せて走った方が速そうではあったが、そこは


「女性にそんなことさせられないよ!!」


 というトーヴァンの主張によりお流れになった。


 結果歩いたわけだが、旅慣れているせいか見た目によらず体力のあるトーヴァンと、獣人化により身体能力が格段に向上しているサリュナにとって、それ程苦労する道程ではなく、移動に関しての心配が要らないのはありがたかった。


 2人はひとまず宿をとり、街を見て回る事にした。

 サリュナも少し迷ったものの、一緒に行く事に。


 というのも、宿までの移動時に感じたことだが、この街の住民は基本的に他者にあまり興味がないようだ。途中で調達したフード付きマントで誤魔化してあるとはいえ、明らかに異形であるサリュナを見ても見咎められることは1度もなかったのだ。


 久しぶりに街中を堂々と歩けるとあって、サリュナは楽しげだ。初めての土地を歩く、ただそれだけで何故こんなにも心が浮き立つのか。危うく目的を忘れそうになる。


 一方トーヴァンはといえば、聞き込みに余念が無い。だが、お世辞にも捗っているとは言いがたかった。この街の住人はその殆どが学問の徒であり、彼らは自分の専門とする分野意外には疎いのである。


 とはいえ、この街も人が生活している以上、商人はいるはずだ。この街に詳しそうな商人達にターゲットを絞ろうか。


 そう気づいた時にはほぼ日没。今日のところは宿に帰らねば。


「今日はもう日が暮れる、聞き込みはここまでにしよう」


 トーヴァンの言葉を受けて2人が踵を返したその時――



「……諦めなされ……」


 ――?!


 ギョッとして振り返ると、そこにはフードを深々と被ったマント姿の老婆が佇んでいた。


「全てを諦めた時、道は開けるじゃろうて」


 そう言うと、老婆は雑踏の中に消えていった。


 気にしちゃダメだ、そう励ますトーヴァンの言葉は心の上辺を撫でていく。何故かこの老婆の言葉が不吉な予感となってサリュナの胸の奥にくすぶり続けるのだった。


 ――翌朝。


 商人にターゲットを絞った聞き込みは、順調だった。昨日の空振り続きがまるで嘘のようだ。


 かなり信憑性の高そうな話から巷の噂程度のものまで大小様々な情報が集まったが、判明したのはおおよそ次のような点だ。


 ・呪術師ギルド自体は都市伝説でも何でもなく実在している


 ・主に呪術師の育成、呪いの解呪、調査、研究を行っている


 ・謎に包まれているのは上層部のメンバーに関する情報


 ・基本的に解呪は有料だが、特殊な呪いの場合に、とある代償を支払うことで無料になる場合があるらしい


 ・解呪の依頼をしに行ったきり、帰ってこない者がいるらしい


 4つ目の後半と5つ目は都市伝説のようなものらしい。いわゆる眉唾ものと言うやつなのだが、5つ目は呪術が絡んでいると思うとあながち本当だったりするのかもしれない。


 とりあえず、実在している組織ならば思っていたより探すのは楽そうだ。ギルドの所在地を確かめたら今日のところは宿に帰ろう。呪術師ギルドを訪ねるのは、明日でいい。

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