(20)「蔓」Ⅵ

 気が付くと、「わたし」は自分の部屋に居た。

 カレンダーを見ると、日付は十二月二十六日になっていた。何だか、長い夢を見ていたような気がする。とりあえず、布団から起きて顔を洗うことにした。

 ふと、部屋の隅に縫いぐるみが置かれているのが目に止まった。「わたし」のものではない。まさかとは思うけどあれ、サトーのものなんじゃ……?


 そう思った瞬間、「わたし」の眼に炎が映った。

 満天の星空の下、屋敷を焼き尽くさんばかりに燃え上がる紅蓮の炎。

 その中には、何人もの子供達が取り残されていて。

 「わたし」には呆然と、その様子を見つめていることしか出来なかった。


「──何、今の」

 見えたのはほんの一瞬。

 だけど「わたし」は確かに、その光景を目撃していて。

 だけど。記憶のどこを探ってみても、思い出すことは出来なかった。


 黒犬の縫いぐるみを手に取ってみる。

 見た所、何の変哲も無い縫いぐるみだ。

「………」

 見ている内に何故か、涙が込み上がって来た。

 どうしてだろう、何も悲しいことなど無いはずなのに。

 どうしてこんなにも、切なく感じてしまうのだろうか。

「………」

 縫いぐるみを抱き締め、「わたし」は独り、泣いていた。

 何も悲しいことなど無いはずなのに、涙が溢れて止まらなかった。

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