(13)Unknown

 「それ」は、何故こんな所に居るのだろうかと考える。


 「それ」は、空を飛んでいたはずだった。何者にも束縛されず、ただ己が意志のまま大空を自由に飛んでいるはずだった。


 それなのに。気が付くと「それ」は、自ら飛ぶことを放棄していた。


 「それ」は考える。何故自分はこんな、薄汚い廃屋の中に居るのかと。そして更に考える。何故この部屋はこんなに、赤黒い色で汚されているのかを。


 ──血だ。


 「それ」は、そう思った。ただそう認識しただけだった。考えてみれば、至極当然のことだった。


 それきり、「それ」は興味を無くした。


「な、何だお前はっ……ぐああああっ!?」


 驚いたように言って来た、目の前の男の顔面を掴み、力任せに放り投げる。ただそれだけで、男は完全に沈黙した。


 握っていた手を開いてみると、赤い肉塊がボロボロと零れ落ちた。


 それは、男の脳髄だった。どうやら、強く握り締め過ぎてしまったらしい。


 次なる獲物を求め、「それ」はきょろきょろと辺りを見回した。部屋の中には男が四人居て、その内の一人はまだ子供だった。怯えたような、惚けたような表情で見上げて来る彼を──何故か「それ」は、酷く懐かしく感じていた。


 頭を撫でようと、右手を差し伸べる。戸惑っているのか、少年は一歩後退った。もう少しで触れられたのに、彼はそれを許してくれなかった。ならば、と「それ」は更に手を伸ばす。血に塗れた、赤い右手を。


 ──瞬間。

 目の前を火花が散って。差し伸べた右手は、粉々に砕け散っていた。


「そこまでです、飛鳥さん。

 さあ、殺し合いを始めましょうか」


 青白い月光の下。

 場違いな程の、優しい微笑みを浮かべて。

 見たことの無い綺麗な洋服を着た女性が、静かに佇んでいた。

 下ろされたその手には、彼女には不釣合いな大型の銃が握られている。


 彼女は誘っている。

 殺し合いをしましょう、と。

 ──「それ」にとっては、願ってもないことだった。

 元より「それ」は、全てを殺し破壊し尽くす為に目覚めたのだから。

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