第31話 食べ物系が多い中で


開始時刻から2時間は経ったであろうか。

こんな田舎にこれほど多くの人が集まるのかと呆気にとられていた。


「お祭り最強ですね。サムライさん」

「ですね。あっ、ドウゾ〜お客さんどうぞ。見てクダサイ」


外国の観光客の人もたくさん訪れており、

英語がまったく話せないワタシたちからすると、

ジャックはかかせない存在になっていた。


「いらっしゃいませ!」

「タオル2枚ください」

「ありがとうございます。Bさんお願い」

「はいよ〜」


長年このお祭りに参加している

サイトウコンビの連携プレーは、見ていてとても気持ちが良い。

女将とおじいちゃんについては他のテントへ挨拶回りに向かっていった。


「どうぞ〜近くには温泉がいっぱいあります!」


お祭りの雰囲気に慣れてきたワタシは、

「いらっしゃいませ」以外の言葉をテント前で叫んでいた。


そんな中でタオルの売れ行きはどうであろうか。

残念なことに、想像していたよりは売れていない。


「ちょっと移動販売してきます。」


危機感を覚えたのか、

30分前にケンさんは50枚ほどのタオルを持って出ていった。


「まだ始まったばかりよ。さぁ若手たちがんばれ、がんばれ」

「ソウですね。頑張りましょう。タケさん」

「よしっ声だすよ〜」


サイトウコンビに鼓舞されたワタシとジャックは、

道行く人にさらに積極的にタオルを宣伝していった。


「1枚くださいな」

「おじちゃん、いらっしゃい」


道行く人の中から静かに、酒屋のタナカのおじちゃんが現れた。

今朝の宣言通りまんじゅうは、もう完売したとのことだ。


「今回はあんまりつくってなかったから、一瞬で売れたわい。

それで、ひとっ風呂浴びようと思ってな」

「ありかとう〜。持ってくるから少し待ってて」


机の上に並べていたタオルの中から、

せっかくなのでワタシの作ったタオルを手に取り、手渡した。


「はい!どうぞ」

「おっ!いい感じやないの。ほな行ってくるで」


ワタシたちが作ったタオルが少しづつ売れていく。

一枚一枚手作りであるためか、うれしい反面、少しさびしい気持ちもした。

お渡しする際は「大事にしてくださいね」と心でつぶやきながら渡していった。


「そろそろお昼やね〜。タケちゃん、ジャック、お弁当取りに行こうかしらね〜」


宣伝に夢中になっていたためか、

あっという間に時間は過ぎてお昼前になっていた。

お昼のお弁当は支給されることとなっており、

ワタシとジャックで取りに行くことにした。


「イタヤ旅館です」

「はいこれね。どうぞ」


お弁当の入った袋をテントに持ち帰りながらワタシは少し考え事をしていた。

作成したタオルは300枚。お昼までに売れた数はおよど50枚。

まだ時間はあるが、何か売れるために考えなくてはならない。


「サムライさん。お昼からの売上アップ作戦はある?」

「う〜ん。ケンさんのように移動式で売るのはドウですか?」


そろそろケンさんも戻ってくるであろう。

その売れ行きで確かに移動販売もありうるかもしれない。


「お弁当持ってきました」

「ありがとうね〜。じゃあ交代でみんなで食べていきましょうか」


2班に分かれて、30分交代でお弁当を食べることにした。

ワタシは最初にお昼を取ることにして、テントの裏で座っていると、

そこに汗だくでケンさんが戻ってきた。


「春だけど、動き回るとあっちぃーな」

「どうだった?ケンさん」

「いや〜ちょっと厳しいな」


売れたのは15枚。近くの温泉前で宣伝していたが、

買ってくれた人の多くは普段からこの地域に住んでいる人が

ほとんどのことだったらしい。


「やっぱり食べ物系は並んでるな」


想像したことではあったが、酒屋のタナカのように食べ物系には並んでいるお客さんがたくさんいる。それに比べて、ワタシたちのテントには行列になることはまだ一度も起こっていなかった。


今更ながら、食べ物の案のほうが良かったのではないかと

弱気になっていく自分がいた。


「食べ物系が多いからこそ、これはチャンスだよ!」


ワタシが提案した案だ。弱気になってはいけない。

30分の休憩時間ではあるが、

急いでお弁当を食べて、再びテント前に出て声を上げた。

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